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「AI導入、まず何から」の前にある本当の障壁——業務プロセスを見直す余白がない

2026/6/2

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「AI導入、まず何から始めればいいか」——この問いへの答えは、実のところ多くの担当者がすでに知っています。目的を整理し、業務プロセスを見直し、小さく始める。どれも正論で、頭では理解しているはずです。それでも動き出せない、というのが実際のところではないでしょうか。

動き出せないのは、知識が足りないからではありません。その正論を実行するための「余白」がそもそも用意されていない——その事実に気づかないまま、今日もまた検索だけが繰り返されています。

本記事では、AI導入の解説記事が暗黙の前提にしてきた「考える余白がある」という条件をいったん疑ったうえで、余白がない状態からどう最初の一手を打つかを、自社調査データと、AIエージェント導入支援の現場で得た観察をもとに整理していきます。

「正論は分かっている。でも動けない」——AI導入担当者が置かれる板挟みの正体

AI/DX推進担当者が、毎週のように同じ問いを繰り返しています。「結局、うちはまず何から手を付ければいいのか」。

きっかけは多くの場合、経営層からの一言です。「うちもAIを使っていかないと」「他社がやっているなら検討してほしい」。そう言われた担当者は、他の業務を抱えながらその検討を引き受けます。専任チームはありません。自分一人か、せいぜい二、三人の兼任チームが「AI推進担当」の実態です。

現場に話を通そうとすると、今度は反発が待っています。
「今の業務で手いっぱいです」「うちの仕事にAIが使えるとは思えない」「何かあったときの責任は誰が取るんですか」。
その声は理不尽ではなく、現場の多忙さは本物です。担当者は経営と現場の板挟みのなかで、「AI導入 まず何から」「AI 進め方」といったキーワードで情報を探し続けます。

検索してヒットする記事の多くは、こんな構成で始まります。まず目的を整理しましょう。次に業務プロセスを見直しましょう。スモールスタートで一つの業務から試してみましょう。

正論です。反論の余地はありません。担当者も「そうですよね」と思いながら記事を閉じます。そして次の会議の資料を作り始めます。

AI導入の検討は、また今週も先送りになります。

この繰り返しが生まれる理由は、担当者の意欲や能力の問題ではありません。既存の解説記事が暗黙に前提にしている「条件」を、担当者が最初から持っていないことにあります。

技術でも予算でもない——自社調査が示した、営業現場における最大の障壁

「セキュリティが不安」「導入費用が高い」「社内にAIを使える人材がいない」——AI導入が進まない理由として語られることが多いのはこの3つです。
では、これらの障壁がすべて解決された状態でも、AI導入が進まない企業には何が残るのでしょうか。

株式会社deflagが2026年4月に実施した独自調査(全国の営業職に従事する会社役員・会社員を対象としたインターネット調査、有効回答数2,108名)では、この問いを正面から設問にしています。

「セキュリティリスク・導入費用・社内リテラシーが解決された場合、それでもAI導入・定着を阻む理由は何か」(n=1,257)を尋ねたところ、最大の障壁として挙がったのは「現在の営業フローが定着し、AIを組み込むための業務フローを見直す余力がない」(20.3%)でした。

2位の「議事録・メール添削以上の、売上に直結する活用方法が思い浮かばない」(15.1%)、3位の「営業ノウハウが属人化し、AIが学習できる言語化データがない」(10.7%)、4位の「効率化で生まれた『空いた時間』を成果に繋ぐビジョンがない」(10.0%)を引き離してのトップです。

国内営業AIエージェント導入実態調査|導入企業と未着手企業の分岐点

この調査の対象はあくまで営業職です。したがって、ここで見えた「見直す余力がない」という障壁は、まず営業現場について確かめられた事実だと理解するのが正確です。

ただし、この障壁は職種固有の事情というより、「業務フローが日々の運用に深く組み込まれてしまっている組織」という構造から生まれているように見えます。
であれば、同じ構造を抱えるバックオフィスや企画部門でも、近い問題が起きていても不思議はありません。

私たちが導入支援の現場で接する非営業部門でも、「見直す手が空かない」という声は繰り返し聞かれます。営業以外への一般化は今後の検証課題ですが、少なくとも「余力のなさ」が技術や予算と並ぶ——あるいはそれ以上の——障壁になりうることを、この調査は象徴的に示しています。

既存記事が暗黙に前提にしていること

「目的を整理する」という処方箋が機能するためには、目的を話し合う会議を設定し、関係者を招集し、複数回の議論を経て合意を得るための時間と段取りが必要です。

「業務プロセスを見直す」という処方箋が機能するためには、現状の業務を棚卸しし、フローを整理し、ボトルネックを特定するための調査と分析の工数が必要です。

「スモールスタートで試す」という処方箋が機能するためには、試す対象を選ぶための議論、評価指標の設計、結果を回収して次に活かすための振り返りの時間が必要です。

これらはすべて、「余白がある」ことを前提にしています。
この条件が最初から満たされている組織——十分なリソースを持つ大手企業や、専任チームを組成できる体力がある会社——には、これらの処方箋は確かに有効です。

しかし、他業務と兼任しながらAI推進を任されている担当者には、この前提が最初から欠けていることが多いのではないでしょうか。
目的整理の会議を入れようにも、参加者の予定が埋まっています。
業務フローを棚卸しする時間を取ろうにも、その週の案件対応で消えていきます。
スモールスタートの設計を考え始めても、日常業務の割り込みで中断されます。

「余白を作るためにAIを導入したいが、AI導入には余白が必要」——この鶏と卵の構造こそが、AI導入を「検討中」のまま止めている本質的な問題です。

既存記事の処方箋そのものは正しいのですが、まだ動き出せていない担当者にとっては、処方箋を実行に移す前段階——時間をどう空けるか——が手つかずのまま残されているのです。

棚卸しの時間も余白もない——「どこから捻出するか」への回答

「では、外部のAI導入コンサルタントに棚卸しを依頼すればよいのではないか」「AI推進の専任担当者を一人立てればいい」——こうした声が出るのは自然なことです。それぞれ選択肢として検討する価値はあります。ただし、前提として整理しておきたいことがあります。

外部委託・専任チームという選択肢の現実

フルコミットでAI導入を支援する外部コンサルタントは、一般に数十万円から数百万円規模のプロジェクトとなり、期間も2〜3ヶ月以上かかることが少なくありません。
初動の棚卸しのためだけに使うには、コストと期間が見合わないことが多いでしょう。一方で、「何から始めるか」の壁打ち相手として外部の目を短時間借りるのは、むしろ有効な判断です。

AI推進の専任チーム・担当者を立てることについては、「そのリソースを出せないから困っている」というのがそもそもの前提です。専任チームを立てられる組織は、すでに余白の問題が一段解決されています。

「完璧な棚卸し」を諦めることから始まる

では、余白はどこから捻出すれば良いでしょうか。

そもそも「棚卸し」という言葉が、作業の規模感を過大に見積もらせている面があります。一連の業務を洗い出し、優先度を付け、ロードマップを引く——そうした本格的な棚卸しは、最初の一歩としては負担が大きく、現実的ではありません。

最初に必要なのは、たった一つだけです。「今週、一番面倒だと感じた業務を一つ特定すること」。本格的な棚卸しを目指すのをいったん諦め、まずはこの一点に絞ります。

今日の30分でできる、業務一つの絞り込み方

自分の状況に一番近い方法を一つ選んでみてください。

自分の業務記録を振り返る方法。
直近2週間のカレンダーやメール、日報を見返して「一番時間を食われた作業」「一番面倒だと感じた作業」を一つだけ書き出します。

チームの声を拾う方法。
「なくなったら一番楽になる作業は何ですか」と、周りの3人に非公式に聞いてみます。会議でも雑談でも構いません。実はチームの中で、こうした「口頭の棚卸し」はすでに日常的に行われています。誰かが「この作業、毎回面倒で…」と漏らしている業務は、余白を生む候補として的確なことが多いです。

生成AIに話す方法。
自分の1日の業務フローを生成AI(ChatGPTやClaudeなど)に口頭で説明し、「この中で繰り返し発生していて、手順が大体決まっていそうな作業はどれだと思いますか」と聞きます。10〜15分の対話で、候補が浮き上がってくることが多くあります。

候補が一つ出たら、次の3点で確認します。

  1. その作業は週に複数回発生するか。

  2. 手順が概ね決まっているか。

  3. 担当者が「これがなければ楽なのに」と感じているか。

3つとも「はい」に近ければ、そこが最初の一手の場所です。

AIエージェントを「余白を生む装置」として捉え直す

絞り込んだ対象が見つかったとき、次に来るのが「何を使って自動化するか」という問いです。この文脈で近年急速に実用化が進んでいるのが、AIエージェントと呼ばれる技術です。

簡単に補足しておきます。生成AI(ChatGPTやClaudeのような対話型AI)は、指示に対して文章や情報を返す「応答型」の存在です。一方、AIエージェントは目的を与えると、状況を判断しながら複数のツールやシステムを横断して実行まで自律的に行います(出典: AIエージェントとは|2026年の現在地と業務で使えるところ・自社解説記事)。

「議事録を書いて」という指示に対し、生成AIは文章を返しますが、AIエージェントは録音データを読み取り、要約を作成し、指定のフォルダに保存し、関係者にメールで共有するところまでを一連で動かせます。

AIエージェントは基本的に、「業務を代替するツール」として説明されることが多いです。しかし推進担当者の立場から見ると、もう一段有用な捉え方があります。それは「最初の余白を生み出すための装置」という位置づけです。

商談後の議事録作成を例にとると、これは多くの営業担当者にとって毎日発生し、手順も概ね決まっており、「これがなければ楽なのに」と感じている作業の代表格です。

この一つをAIエージェントに任せると、担当者に毎日繰り返していた手作業の時間が戻ってきます。
私たちが支援した現場でも、議事録や定型報告の自動化で「週に数時間単位」の手が空いた例があります(削減幅は業務量や運用体制によって大きく変わるため、あくまで一例です)。

重要なのは削減時間の大小よりも、その空いた時間が「次に何を自動化するか」を考える時間になり、そこからまた次の余白が生まれていく、という連鎖が始まる点です。

余白が余白を生む——最初の一手の先にあるもの

最初の余白が生まれると、組織が動き始めます。

推進担当者には「次の設計を考える時間」が生まれます。
今まで「いつか考えよう」と後回しにしていたAI活用の構想が、具体的な検討のテーブルに乗ります。次はどこを変えるか、経営にどう報告するか——これらは余白がなければ考えられなかったことです。

現場の担当者には「体験」が生まれます。
AIが業務を処理してくれた経験を一度でも持つと、「もっとこんなことができないか」という声が自然に出始めます。最初はAI導入に懐疑的だった現場が、使用体験を持つことで推進者側に回っていくケースは少なくありません。

経営層には「報告できる小さな成果」が届きます。
「この業務で月に何時間削減できた」という具体的な数字は、次のリソース確保の根拠になります。AI導入の検討に予算をかけてよいかどうかの判断材料が、ここで初めて揃います。

参考に、外部調査も近い構造を示しています。
Asanaが2025年に日本で実施した調査では、日本の組織の83%がAI活用を試用段階から先に進められていない実態が示されています(出典: Asana 仕事のAI実態調査2025 日本版)。
同調査は、AIを既存の業務にそのまま足すだけでは、情報共有や調整といった「すり合わせ業務」がかえって増え、効果が出にくいことも指摘しています。

ここから先は私たちの解釈ですが、この指摘は「業務の流れを整えないままAIを足しても成果につながりにくい」という見立てと整合します。
逆に言えば、活用を拡大できている組織は、本格導入の前にまず業務の流れそのものを小さく整え直していた可能性が高い。整備の規模は問いません。「最初の一業務を任せられる状態にした」ことが、その先の積み上げを支えているのではないか、と私たちは考えています。

余白がない組織は、「検討中」を繰り返します。余白がある組織は、積み上げていきます。この差は、最初の一点を突破できたかどうかから始まっています。

明日の一手を決めるために

本記事を通じて伝えたかったことを一言にすると、業務プロセスを見直す時間を作るために、まずは小さな「余白」をつくる、ということです。

「今週、一番面倒だと感じた作業は何か」。

その答えが、本記事で挙げた3つの条件に当てはまるなら、そこが最初の一手の場所です。

外部に相談するにせよ、自分でAIエージェントを試すにせよ、まずその一点を特定することから始めてみてください。

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