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AI時代のBIとAI ── 民主化の失敗の先に

2026/5/22

株式会社deflag CDO

深川 泰雅

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  • # AI

  • # BI

  • # 民主化

データの民主化は、長らくBIに託されてきました。
誰もが自分でデータを見て、自分で判断する——その約束に、世の中はかつて大きな期待を寄せました。ところが、約束はほとんど果たされないまま、今度はAIが同じ約束を携えて登場しています。

本記事は、BIとAIを「どちらが要るか」ではなく「どのように使い分けるか」を、現場の手触りから整理するものです。
Deflagの取締役CDO (Chief Data Officer) として、また一人のTableau Data Saberとして、複数の現場でBIが浸透する組織と浸透しない組織の両方を見てきた立場から述べます。

BIが登場したとき、世の中の期待は本当に高かった

BI登場し広まり始めた頃の熱量を、覚えている方は多いのではないでしょうか。コードを書かなくても、ドラッグ&ドロップでデータが見える。エンジニアを介さずとも、現場が自分でダッシュボードを作って意思決定する。代表的なBIツールとして、Tableauはその象徴でした。

期待の中身は、「民主化」であり、「データ分析のセルフサービス化」でした。

経営の現場でも「データ・ドリブン」「全社員がデータで語る組織にしたい」という言葉が、本気で語られていました。

私もその熱の中にいた人間です。Tableau Data Saber として作法を学び、社内で導入を推進する側や、導入支援をする立場に立ってきました。

民主化は、BIでは仕切れなかった

社内にTableauを入れても、ほとんどの場合において、実際に使うのは一部の人間だけでした。本当にデータの民主化に至れていた組織は稀で、これは複数の現場で繰り返し見た景色です。

理由ははっきりしており、営業やマーケティングのチームは、ダッシュボード作成に工数をかけたくない。当然ながら、彼らの本業はダッシュボードを作ることではないですし、それをしても社内で評価されないからです。
また作ろうとすれば、相応のスキルが要ります。BI特有のお作法を理解するだけでなく、自社のデータ構造を理解し、組織のデータ基盤の整備具合によっては、必要時にはデータ間の結合を考えることも必要でした。ダッシュボードを作るには、専用のスキルを頑張って習得しなければならなかったのです。

これはTableauだけの話ではなく、Looker Studioも、Lookerも同じです。
見る側のハードルは下がっても、BIを作る側には専門性の壁が残り続け、民主化したのは「閲覧」であって、「問いを立てて自分で作る」ことではありませんでした。
結局、ビジネス現場はデータスキルのある別の誰かに依頼し、データセンター化され、データセンターがボトルネックになる。民主化のはずが、ボトルネックの位置が変わっただけでした。

数字もそれを裏づけています。BIの全社活用率は、1998年に約19%、それから20年以上たっても25〜30%前後で頭打ちのまま動いていません(出典: TechTarget, 2023 ほか)。ツールは進化し続けたのに、使う人の割合は四半世紀ほぼ一定だったようです。

「リテラシー教育」という名の、失敗の現場転嫁

Tableauの習得に費やした時間は、誰かの意思決定を1ミリも良くしていません。
それはダッシュボード作成スキルを覚えるための時間であって、データから何かを判断し、示唆を出し、意思決定する時間ではない。にもかかわらず、業界はこれを長年「データリテラシー教育」と呼び、必要なコストとして正当化してきました。

私はこの構図を、民主化の失敗を現場に転嫁していただけだと考えています。
本来、ツールの学習時間というものは不要な時間のはずです。学習が前提条件である時点で、それは民主化ではありません。資格を持つ人だけが入れる、という意味で、むしろ学習コストという名の身分制でした。

AIが取り払ったのは「問いの摩擦」

ではAIの登場は、BIの登場と何が違うのか?ここははっきり違うと考えています。

現在起きているのは、AIによって誰でも、対話だけでダッシュボードを作れるようになっているという変化です。スキル習得の必要がなく、データに対して日本語で問いを投げれば、答えが返り、ダッシュボード画面ができる。BIの時代に民主化を阻んでいた最大の壁である、作る側に課せられた学習コストが構造的に消えつつあります。

BIが下げたのは「見る側の」ハードルでした。AIが下げているのは「作る側の」ハードルです。BIの時代に果たせなかった約束の核心に、今度こそ手が届きかけているように思います。

BIとAIはどう使い分けるのか

ただし、「だからBIは要らない」と言い切るのではなく、これからは使い分けになると思います。

実務上で考えると、両者の使い分けの輪郭が見えてきます。その場限りの問い、例えば「先月の解約はどのセグメントで増えたか?」のようなアドホックな分析は、AIに聞く方式が圧倒的に速いですよね。

一方で、毎月決まった形で出す定期モニタリングや、外部提出が前提のレポートは、対話の都度生成より、決まった処理を回すほうが向いています。

とはいえ、その定型処理自体もHTMLやPythonとAIを組み合わせて自動化できる時代です。

一目で全体像が分かるダッシュボードは、依然として価値がありますが、その「全体像が分かる画面」を、いまや既存のBIツールを使わずAIで専用画面として作るほうが速い場合もあります。従来のBIとは違いますが、機能としては広義のBIです。

そう考えると、「BIツールが要るか要らないか」という問いは、筋の悪い問いに見えてきます。問題はツールの形ではなく、その画面を誰がどう保守し続けるかに移っているからです。

複数人で保守する、新しく入った人へ引き継ぐ。その運用を担える人材は、これからの採用ではほぼ前提になっていくでしょう。引き継ぎ資料すらAIが書ける時代に、それができない前提で設計するほうが不自然です。

同時に、そこへ割けるリソースがあるなら本業に充てるべきだ、という話も常にあります。安易な二元論でBIツールの要・不要を語るのは違う、というのが私の立場です。

使い分けはツールの優劣の話ではなく、運用を担える体制の話です。そう捉え直すと、どの分岐をたどっても消えないものが一つだけ残ります。

どの分岐でも消えないものは標準化

AIが民主化をどれだけ加速させても、標準化という業務は変わらず必要で、むしろこれから中心に移っていくでしょう。標準化には2つの層があります。

1つは、組織で「価値観」を揃えること。
なぜこのドメインを見るのか、視点・視野・視座をそろえる。時系列をどう見るべきか。何に気づくべきで、その適切なタイミングはいつか。これは見方の合意であり、人間が引き受けるしかない領域です。

もう1つは、「構造」を整理すること。
指標・分析軸・画面を適切な実装単位に分け、命名規則を定める。こちらはAIで加速できますが、何を正しいとするかの根本は、人間が定める必要があります。

「売上」の定義が部署ごとに違うまま全社に開放すれば、同じ質問でもタイミングごとに異なる数字が返ってきます。AIが登場する以前は「専門家に聞かないと分からない」という摩擦が、皮肉にも誤った定義の伝播を止める防波堤として機能していました。

AIの時代では、その防波堤は無くなります。標準化は「あると良い」から「ないと壊れる」インフラへ格上げされていきます。実際、対話型AIを載せる側の製品である、ThoughtSpotにせよTableau PulseにせよLookerにせよ、いずれも整備済みの指標定義レイヤーがあることを動作の前提にしています。標準化は、AIの前提条件そのものなのです。

なお余談ですが、標準化が中心になる時代に、定義や構造をコードとして管理できないBIは、本当に苦しくなっていくと考えています。指標の定義をGitで差分管理できず、レビューもできず、AIからも触りにくい。画面が手作業の積み重ねで、誰がいつ何を変えたか追えない。そういうツールは、標準化が価値の中心になるほど不利になります。

価値が「画面を作れること」から「標準化をコードで運用できること」へ移っていき、定義がコードとして書かれ、バージョン管理され、AIが安全に編集できる形に寄せたものが残っていくでしょう。

BIの役割は最小化していく:価値はツールから人へ

BIとAIには、確かに使い分けの役割が残ります。それでも、BIツールの役割は最小化していく方向にあると思います。問いに対して回答する役割はAIに寄せられていき、画面は必要な分だけAIが生成し、定型処理は自動化される。BIという製品カテゴリーが占めてきた面積は、確実に小さくなると思います。

「BIが全て消えて、何の活用場面も残らない」という話ではありません。
残るのは標準化という仕事であり、それを担う人です。何を見るべきかを決め、見方をそろえ、指標に名前を与え、構造をコードで保つ業務は民主化されません。むしろ全員が対話で数字を作れる時代だからこそ希少になります。

経営の現場で問われるべき投資の問いも、ここで組み替わります。「どのBIツールを入れるか」ではなく、「標準化を担うレイヤーと人に、いつ投資するか」です。

一周目の、BI時代の民主化は、ツールに賭けて仕切れませんでした。二周目であるAI時代を、また同じ賭け方で迎えるのか、それとも、ツールの下にある標準化へ主語を移すのか。分かれ目は、すでに目の前にあります。

株式会社deflag CDO

深川 泰雅

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