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余白のない会社は、なぜ成長できないのか

2026/5/21

株式会社deflag CEO & Founder

佐々木 陽

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  • # AI導入

  • # 経営者・役員

  • # 業務効率化

  • # 余白

「今期こそ新しい取り組みを始めよう」——そう経営会議で決めたはずなのに、気づけば3ヶ月が過ぎていた。
誰もサボっているわけじゃない。メンバーは毎日忙しそうに働いている。それでも、新しいことが動き出さない。

この現象を、私は何度も目にしてきました。

原因は、シンプルです。余白がないからです。

新しいことを始めようとすると、なぜ組織は動かないのか

人は複数のことを同時に行うと、必ずコンフリクトが生じます。

脳のリソースは有限です。今やっている仕事をこなしながら、新しい仕事を並行して立ち上げるのは、想像以上にコストがかかる。
しかも多くのビジネスパーソンは、すでに仕事で埋め尽くされています。

新しいことを始めるためには、まず「やらないことを決める」必要があります。既存の業務を棚卸しし、「これは手放してよい」という意思決定をしない限り、人は動けません。

ところが多くの企業は、新しいチャレンジを掲げながら「やめてよいこと」を決め切らない。追加するばかりで、削らない。
その結果、現場は疲弊し、新しい取り組みは名ばかりのまま消えていきます。

余白とは、偶然できるものではありません。意図的に設計するものです。

営業担当者の時間の70%は「本来やらなくていい仕事」だ

私が支援してきた企業で繰り返し目にする光景があります。

優秀な営業担当者が、午前中の大半を商談データの入力作業に費やしている。SFA と社内管理表への二重入力。週に一度の進捗会議では、報告書をただ読み上げるだけ。夕方になってようやく顧客対応の時間が取れるが、もう集中力は残っていない。

これは極端な例ではありません。私の肌感覚では、営業担当者の業務時間の70%近くがノンコア業務に支配されています
Salesforceの調査でも、営業担当者が実際の営業活動(顧客対応・商談)に使えている時間は全体の30%程度に過ぎないというデータが示されており、この感覚とほぼ一致します。

本来、営業という仕事の本質は顧客と向き合うことです。課題を聞き出し、提案を磨き、信頼を積み上げる。それ以外は、すべてサポート業務のはずです。

「SFA入力」をKPIにする会社が犯している本質的な間違い

ここで逆説が生まれます。

エース営業ほど、SFAへの入力や管理系の作業を嫌います。なぜなら、彼らは本能的に「顧客と向き合う時間こそが成果に直結する」と知っているからです。

一方、会社側は困ります。データが入力されなければ、組織として状況を把握できない。そこで何が起きるか。
「SFA入力をミッションとして設定し、評価指標に組み込む」という判断をする組織が出てきます。

私はこれを、愚の骨頂だと思っています。

入力そのものには何の価値もありません。データが蓄積されることで可視化や分析ができる——それが目的のはずです。

入力行為を評価することは、手段を目的に倒置させることです。顧客に向き合い、売上を上げられる人が正当に評価されるべきであって、報告書を丁寧に書く人が高評価される組織は、ビジネスの本質を見失っています。

問題は入力しない営業担当者にあるのではなく、入力しなければ回らない業務設計にあります。

緊急と重要の4象限——成長企業と停滞企業を分けるもの

スティーブン・コヴィーが『7つの習慣』で示した「時間管理の4象限」をご存知の方は多いと思います。縦軸に「重要度」、横軸に「緊急度」を置いた2×2のマトリクスです。

企業も、個人も、日々の仕事はほぼ「緊急かつ重要」な象限で埋め尽くされています。クレーム対応、締め切りのある報告、会議の準備——これらは避けられません。

しかし、成長する企業とそうでない企業を分けるのは、「緊急ではないが重要」な仕事をどれだけやれているかです

中期的な戦略設計、人材育成、新規事業の仮説検証、組織文化の構築——これらは明日の締め切りがありません。だからこそ後回しにされる。そしてその差が、時間とともに複利として広がっていきます。

日々の緊急対応に追われている組織は、5年後も同じ場所にいます。「緊急ではないが重要」な仕事に時間を割ける組織は、5年後に全く異なるステージにいます。

余白とは、まさにこの「緊急ではないが重要」な仕事に向き合うための時間です。

AIとデータは「余白を作るツール」である

ここで、AIの役割を正確に定義したいと思います。

昨今、「AIを導入しよう」「業務をAIに任せよう」という掛け声が至るところで聞こえます。しかし私は、AIそのものを目的にすることに違和感を持っています。

AIは道具です。余白を生み出すための手段です。

商談後の議事録作成、CRMへのデータ入力、週次レポートの集計と整形——これらはすべて、AIが代替できる領域です。しかも、人間がやるより正確で速い。
データをリアルタイムで蓄積・可視化する基盤(データウェアハウス)を整えれば、週に何時間も費やしていた報告作業がほぼゼロになります。

それによって生まれた時間を、顧客との対話や、戦略の思考に充てる。これが余白の設計です。

重要なのは順序です。まず「何の余白を作りたいのか」を定義してから、AIとデータをその手段として位置づける。この順序が逆になると、「AIを入れたのに何も変わらない」という結果に終わります。

余白の設計は、経営者にしかできない

最後に、最も本質的なことを言います。

余白の設計は、現場には任せられません。

「この業務はやめよう」「この入力作業はAIに任せよう」——そう決断できるのは、意思決定者だけです。

現場の担当者が「この仕事はやめます」と言える組織は、ほとんど存在しません。現場は指示された業務をこなすことが仕事であり、やめることを決める権限がない。

だからこそ経営者が動く必要があります。
業務の棚卸しをして「やめること」を決め、AIとデータで代替できる領域を特定し、解放された時間を「緊急ではないが重要」な仕事に再配分する。この一連の設計を、トップが旗を振って進める。

それをしない限り、現場にAIツールをいくら配布しても、組織は変わりません。学習コストが発生するだけで、誰も本気で使おうとしない。「AIを導入したが効果がなかった」という声の多くは、この設計の不在が原因です。

余白がないから、成長できない。
余白はデータとAIで作り出せる。
そして余白を設計できるのは、経営者だけです。

会社の成長に複利をかけるために、まず「やめること」を決めてみてください。
そこから、すべてが始まります。


株式会社deflag CEO & Founder

佐々木 陽

株式会社Deflag代表取締役CEO。リクルートでの大型サービスDX推進を経て、Oneteam Inc.を創業・売却。現在はDeflagにて100社以上の企業の戦略・AIインテグレーション・データ基盤構築を伴走支援。情報経営イノベーション大学(iU)客員教授。

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