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「コストセンター」だったデータ基盤が、AIで反転する

2026/5/21

株式会社deflag CDO

深川 泰雅

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  • # AI

  • # データ基盤

「データ基盤」の整備に携わってきた方がまず思い浮かべるのは、長年予算説明に追われ続けてきた地味なIT投資ではないでしょうか。誰の意思決定が良くなったのかが見えにくく、経営からROIを問われるたびに、気の利いた答えが返せない。

AIの登場で、この評価軸が反転しつつあります。これからの経営は、データ基盤を抜きにしては語れません。Deflagの取締役CDO (Chief Data Officer) として複数の現場を見てきた立場から、経営者の目の前にある分岐について述べていこうと思います。

これまでのデータ基盤は「集めて整える」で止まっていた

これまでデータ基盤は、「集めて整える」ことに価値の大半がありました。各事業のシステムからデータを抽出し、社内のDWHに統合し、分析に使える形に整えて仕事の多くは終わっていました。

「集めて整える」で止まっていたのは、整えたデータを意思決定につなげるまでの間に、3つの壁が立ちはだかっていたからです。

1つ目は、SQLの壁。データ基盤に何が入っていても、SQLを書ける人にしか引き出せない。経営も営業もマーケティングも、仮説があっても見たいデータを直接取りに行けず、間に必ず誰かが介在する状態が続いていました。

2つ目はBIの壁。BIツールを入れれば「セルフサービス分析」とうたわれてはいましたが、実際にはダッシュボードの設計や指標の定義づけに、エンジニアやデータチームが関与し続け、現場が自由に問いを立てるところまではなかなか到達しなかったのが現実でした。

3つ目は、データアナリティクス・サイエンス力の壁。予測や最適化など、データを使って「実行」までつなげる仕事は、データ専門人材なしには動かない。多くの会社で、貯めたデータが「分析できる」ところまではなんとか届いても、「実行を変える」ところには届かないまま終わっていました。

3つの壁が立っているかぎり、データ基盤は「貯めるだけのコスト」に見えます。地味に貯めて、地味に整えて、ROIが見えづらく、予算を取りに行くたびに説明に追われる。この3つの壁が長らく立ちはだかり、社内で「コストセンター」として扱われ続けてきた組織もあるのではないでしょうか。

AIが3つの壁を取り払う

AIの登場でこの3つの壁が同時に崩れはじめています。

SQLの壁は、自然言語で問いを投げればAIがクエリを書く時代に変わりました。BIの壁も同様に、誰かが整えたダッシュボードを見るのではなく、AIに「こういうダッシュボードを作って」と話しかければ、BIスキルがなくともダッシュボードが出来上がります。データサイエンス力の壁も、専門知識のない担当者が予測モデルを試したり、その結果を実行に組み込んだりすることが、レビュー知識は必要ですが、現実的にできるようになりつつあります。

経営も、マーケも、営業も、開発も、それぞれの言葉でデータに直接触れに行け、間に、データを挟む必要がなくなっています。

少し前まで、経営者が「あの案件、いまどうなっている?」と聞けば、経営企画の誰かが関連情報を集め、整え、報告書にまとめて返していました。数日で出てくれば相当ちゃんとした経営企画です。実際にはもっとかかっていた、という会社も少なくないはずです。

プロンプトを投げれば、すぐに返ってくる時代に入りつつある。経営者本人が、自分の問いに対して、自分のタイミングで答えに届ける。データと意思決定の間にあった「翻訳の人手」が、構造として不要になっていきます。

データ基盤の価値は反転する

3つの壁が崩れることで、データ基盤の価値は反転します。

「貯めるだけのコスト」だったものが、「経営の意思決定の解像度を変える土台」に変わる。ROIが見えづらかったものが、経営者が日々問いを立てるたびに、その精度とスピードに直接効くようになるのです。

これは経営にとって地味ではなく、むしろインパクトが連鎖する変化です。経営者が会社の状況に深く触れられるようになると、判断の精度が上がる。判断の精度が上がると、会社のパフォーマンスが上がる。パフォーマンスが上がる手応えがあると、データ基盤への投資のモチベーションが上がる。
投資が増えると、もっと多くの問いに答えられるようになる。「投資 → 解像度 → 判断 → パフォーマンス → 投資」のループが回り始めるのが、これから起きることです。

これまで「コストセンター」として扱われてきた仕事と、その成果物が、いま初めて「会社に直接利く資産」として位置づけ直される。データ基盤への投資判断が、「いつかやるIT投資」の枠から、「経営の意思決定を支える本丸の投資」の枠に移っていくということでもあります。

ただし現実は二極化している

ここまで読むと、AIの追い風で誰もが恩恵を受けるように聞こえるかもしれません。

現実は、二極化しています。私はこれまで複数の事業会社の経営層と、データ×AIの活用について対話を重ねてきました。その中で、データ基盤が整っていない会社で繰り返し見てきた景色があります。

経営会議の意思決定材料が作れない
事業別、顧客セグメント別、チャネル別の収益や投資効率を見ようとしても、データが分散していたり、定義が揃っていなかったりして、出てきた数字に整合性が取れない。会議のたびに「この数字、合ってますか?」という確認で時間が溶けるという状態です。

投資判断が定量化できない
新規事業の意思決定、M&Aの検討、既存プロダクトへの追加投資。どれも「自社のリソースがどこにどれだけ投資されていて、どこに伸び代があるか」が見えないと、定量的な根拠を伴う判断にはなりません。仮説はあるのに、それを裏付けるデータが揃わない、という構造です。

KPIモニタリングが手動運用で回っている
月次・四半期の進捗や差異分析を、毎回誰かが手で集計している。ようやく集計が終わって経営会議に出てきた時には、議論の鮮度が落ちており運用に耐えられていない。

経営の問いに即答できない
「あの案件、どうなった?」「あの顧客との取引、過去どんな経緯があった?」が、人に聞かないと出てこない。人ごとに答えが違う。意思決定の前提が、人の記憶と気分に依存している状態です。

これらはすべてAIで解消できる課題です。けれどAIを入れたところで、データ基盤の中身が分散していたり、整合性が取れていなければ、AIから返ってくる答えも信頼できません。仮説は立てられても、検証するためのデータがない、という状態が続きます。

これから起きるのは、コツコツとデータに投資してきた会社が果実を刈り取り始め、そうでない会社はAIを入れても答えに届かない、というはっきりした分岐です。
各システムがバラバラに入っていて、定義が揃っていなくて、社員番号や顧客IDが複数の系で食い違っている。そういう会社でAIを立ち上げようとすると、議論はいつも「まずデータを揃える話から」に戻ります。AIの進化が早ければ早いほど、それを使える土台がない会社との差は、加速度的に開いていきます。

これからの経営の前提

これから経営者が向き合うべき問いの1つは、全社のあらゆる活動が、漏れなくデータ化され、基盤に入っているか。基幹システムにも、業務システムにも、ドキュメントにも、コミュニケーションにも、過去の意思決定の経緯にも、人の動きにも、全社のあらゆる「過去」が漏れなくデータとして残っていて、それを横断的に引き出せる土台があるか。これがあって初めて、AIが会社の問いに対して意味のある答えを返せるようになります。

逆に言えば、ここに穴がある会社は、AIを入れても、入れただけでは答えに届けません。経営の問いの一部にしか答えられないAIは、その一部の判断にしか効かない。残りの大半は、これまで通り「人の手で集めて、人の頭で繋ぐ」運用が続きます。

これからの数年で、「経営者が自分の問いに直接答えに届ける会社」と、「人の手で集めて、人の頭で繋ぐ会社」の差は、意思決定のスピードと精度の差になり、最終的に事業のパフォーマンスの差になっていくと思います。

データ基盤は、もう単なるコストではありません。これからの経営の前提を支える、最も足元の土台です。社内で「データ基盤の議論を、いつ、誰が立てるか」を、今日決める価値があります。

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深川 泰雅

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