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BigQueryでDWH(データウェアハウス)を構築すると、売上・顧客・広告といった構造化データを統合して分析できるようになります。
そこに「議事録や過去の戦略資料からも示唆を出したい」という要望が来ることがあります。PDFやPowerPoint、音声はBigQueryのテーブルには入りません。
本記事では、DWH構築の経験を前提に、この要望への答えとしてデータレイクハウスの全体像を整理します。
レイクハウスとは何か、作り方が2通りあること、Apache Icebergはどこで必要になるのか、既存のDWH資産をどうするのか、までをご紹介します。
レイクハウスは、データレイク(安価で柔軟なファイル置き場)とDWH(テーブル管理と分析機能)を統合したアーキテクチャです。
Google Cloudでは、構造化データはBigQuery、PDF・音声・画像のファイルはCloud Storage(GCS)と、データの種類ごとに適した場所へ保存し、BigQueryを入口として両方を参照・検索・AI処理できる状態を作ります。
PDFはPDFのまま、音声は音声のままGCSに置きます。
従来のDWH構築の思想が「分析したいデータをBigQueryのテーブルに集める」だったのに対して、レイクハウスは「全部をBigQueryから扱えるようにする」への転換です。

したがって、これまで作ってきたDWH(BigQueryへの物理集約 + dbtでのモデリング + BI)を捨てて作り直す話ではありません。
DWHはそのまま残し、その外側に非構造化データの置き場と接続の層を足して、扱える範囲を拡張します。以下、この構成を順に分解していきます。
BigQueryは、3つの役割を1つのサービスとして提供しています。
ストレージ:データの実体を保持する
テーブル管理:スキーマ、どのデータが現在のテーブルを構成するか、更新の履歴を管理する
クエリエンジン:SQLを実行する
従来のDWH構築で、この3つを意識する必要はありませんでした。
CREATE TABLEしてデータを入れれば、実体の保存もテーブルの管理もクエリの実行も、全部BigQueryの中で完結していたためです。
レイクハウスは、この3役を分離して、役割ごとに担い手を選び直す設計です。
分離すると、ストレージはGCS、テーブル管理はオープンな規格(代表が後述するApache Iceberg)、クエリエンジンはBigQueryにもSparkにもできる、という選択肢が生まれます。

3役をどこまで分離するかで、作り方は2通りに分かれます。
BigQuery中心型は、構造化データについては3役ともBigQueryのまま動かさない構成です。非構造化データだけGCSに置き、参照でBigQueryに繋ぎます(接続の仕組みは後述するObjectRefです)。
既存のdbtモデルとBIはそのまま使い続けられ、運用もこれまでのDWHとほぼ変わりません。
Iceberg中心型は、構造化データの正本もGCSに移す構成です。
データはGCS上のParquetファイルとして持ち、テーブル管理をApache Icebergというオープン規格に出します。
BigQueryは「そのテーブルを読み書きするエンジンの一つ」になり、SparkやTrinoからも同じテーブルを直接読み書きできます。

ここで用語を正確にしておきます。
レイクハウスという語の原典は、Databricksの研究者らがデータベース分野の国際会議CIDRで2021年に発表した論文で、定義の第一要件は「Parquet等のオープンで直接アクセス可能なデータ形式に基づくこと」です。
同じ論文は「全データを、ストレージと計算を分離した独自形式のウェアハウスに格納する構成」を、普及しなかった次善策として名指しで退けています。BigQueryの内部形式は独自形式なので、BigQuery中心型はこの記述に該当します。
Google自身も、lakehouseの語はオープン形式の構成に対して使っています。Google Cloudのレイクハウス製品「Lakehouse for Apache Iceberg」はその名の通りIceberg構成の製品であり、公式ドキュメントのlakehouseの定義も「オープン形式でCloud Storageに保存する」ことを含みます。
つまり、原義のレイクハウスはIceberg中心型を指します。
ネットの記事には「BigQueryもレイクハウス」という言い方が流通していますが、一次ソースの裏付けがない緩い用法です。
本記事では、BigQuery中心型は「レイクハウスが解こうとした課題、つまり構造化データと非構造化データの統合利用への、Google Cloud上の現実的な別解」として扱います。
選ぶ基準は「非構造化データを扱うか」ではありません。
非構造化データを扱うだけなら、BigQuery中心型で足ります。
基準は「構造化データの正本をBigQueryの外に出して、複数のエンジンで共用したいか」です。
Icebergにすると、データがGoogle独自形式ではなくGCS上のオープン形式になるためロックインが減り、BigQueryとSparkが同じテーブルを使えるようになります(One Copy, Multiple Engines)。
裏返すと、分析がBigQuery・dbt・BIで完結していて、SparkもTrinoも使っていない場合、Icebergを入れる追加価値は小さいです。
冒頭の「議事録からも示唆を出したい」が目的なら、BigQuery中心型から始めるのが実務的です。
Apache Icebergは、GCSのようなオブジェクトストレージ上に置いた複数のParquetファイルを、1つの論理テーブルとして管理するためのオープンなテーブル形式です。
Icebergがない場合の問題から見ていきます。GCSに月次の売上ファイルが並んでいるとします。
gs://sales-data/
├── 2026-01.parquet
├── 2026-02.parquet
├── 2026-03.parquet
└── ...これはあくまでファイルの集合であって、「salesというテーブル」はどこにも存在しません。
どのファイルが現在のsalesを構成するのか、スキーマは何か、更新したらどれが最新か、昨日時点の状態はどうだったかを、全部自分で管理することになります。
Icebergは、このファイル群の上にテーブル管理の層を作ります。
テーブル名・スキーマ・どのファイルが所属するか・各時点の状態(Snapshot)を管理し、利用者からは SELECT * FROM sales という1つのテーブルに見えます。

更新のたびに新しいSnapshotが作られ、過去の各時点の状態も残ります。
これにより、UPDATEやMERGE、昨日時点への問い合わせ(Time Travel)、列の追加(Schema Evolution)といった、DWHでは当たり前のテーブル操作が、GCS上のファイル群に対してできるようになります。
なお、Parquetはスキーマを持つ列指向の形式なので、議事録の書き起こしのような自由記述も、meeting_id・meeting_date・transcriptという列構成の1列(文字列型)として持てます。
意味的には非構造でも、器としては列構造を持ちます。ただし、PDF・音声・画像といったファイルそのものは行と列になりません。
原則は「ファイル本体はGCS、BigQuery側にはそのファイルへの参照を持つ」です。ファイルの中身をBigQueryに二重保存はしません。
具体例で見ていきます。次のようなcustomersテーブルを持っているとします。
customer_id | company_name | arr |
|---|---|---|
C001 | A社 | 50M |
C002 | B社 | 30M |
ここに最新の商談議事録を顧客データとして紐付けたいとします。
PDF本体は gs://company-data/meetings/ に置き、BigQuery側に customer_meetings テーブルを作ります。
customer_id | meeting_date | document_ref |
|---|---|---|
C001 | 2026-08-01 | → C001_20260801.pdf |
C001 | 2026-08-08 | → C001_20260808.pdf |
C002 | 2026-08-05 | → C002_20260805.pdf |
このdocument_ref列がObjectRefで、GCS上のPDFを指します。

ObjectRefは、参照先のURIやアクセス権限の情報を持つSTRUCT型で、OBJ.MAKE_REF()関数でURIから生成できます。
2025年6月にPreviewとして発表され、2026年4月にGAになりました。
この仕組みの利点は2つあります。
第一に、顧客という1レコードの属性としてPDFを紐付けられるので、売上・ARRと議事録を同じデータモデルで扱えます。
第二に、ObjectRefをBigQueryのAI関数(AI.GENERATE等)に渡すと、SQLの中からGeminiでPDFの要約・分類・埋め込み生成ができます。
事前にPDFを行と列に変換しておく必要はありません。
もう1つの接続手段としてObject Tableがあります。
GCS上のファイル群そのものを「ファイル一覧のテーブル」としてBigQueryから見せる、読み取り専用のテーブルです。
使い分けは目的で決まります。
「社内の議事録PDFを全部まとめてAIで検索・処理したい」ならObject Table、「顧客・案件・商談といった業務レコードに文書を紐付けてデータモデルを作りたい」ならObjectRefです。
ここまでで、置き場所と繋ぎ方は決まりました。
残る疑問は「データが散らばったままで、統合と言えるのか」「BigQueryへの集約とモデリングは、もう不要なのか」です。
集約とモデリングは完全には消えません。
ARRやChurnのような重要KPIを、毎回複数のシステムを横断参照して算出する設計は取りません。
頻繁に使う構造化データはこれまで通りBigQueryへ物理的に集め、dbtでCore / Mart / KPIをモデリングします。
理由はクエリ性能、KPI定義の統一、履歴の保持です。
「アクセスできること」と「分析しやすいデータモデルがあること」は別問題で、レイクハウスが解くのは前者です。
一方で、全部をコピーする必要もなくなっています。
たまにしか参照しないCloud SQL上のデータは、federated query(EXTERNAL_QUERY関数)を使えば、コピーも移動もせずにBigQueryから参照できます。実体を動かして集めるデータと、参照で繋ぐだけのデータを使い分けます。
そしてAI活用の観点で最後に効くのは、customer_id = C001 を引けば、BigQueryの売上・契約と、GCSの議事録が全部つながって出てくる状態です。
ファイルをGCSに集めただけでは、この状態にはなりません。共通キーとメタデータで繋いで初めて、AIが顧客を横断して読めるようになります。
この「どこに何があり、それが何を意味し、何とつながるか」を管理するのがカタログです。ARRの定義・Owner・更新頻度といった用語の管理から、この指標はどのテーブルから作られたかという系譜(Lineage)まで含みます。
データと利用者とAIエージェントが増えるほど、カタログの重要度が上がります。
整理すると、変わったのは「物理的に一箇所へ集めること」が統合の必須条件ではなくなった点です。
頻繁に使うデータは集めてモデリングし、そうでないデータは参照とカタログで繋ぎます。「全部集める」から「必要なものだけ集め、残りは繋ぐ」への変化であり、集めた後のモデリングの仕事はそのまま残ります。
Google自身の製品もこの方向に進んでいます。
ObjectRefは「全部をBigQueryに保存するのではなく、全部をBigQueryから扱えるようにする」を製品機能にしたものです。
さらに2026年7月のNext Tokyoで発表された「borderless Lakehouse」は、AWSやSnowflake、Databricksといった他クラウド・他基盤にあるデータを、コピーせずBigQueryやAIから直接クエリする構想を打ち出しています。
ここまでの設計を実際の製品に割り付けます。BigQueryとGCSを使うからといって、全レイヤーをGoogle製品で固める必要はありません。
レイヤー | 役割 | Google候補 | 代替・併用候補 |
|---|---|---|---|
Ingestion | DB / SaaSからのデータ収集 | Datastream / Dataflow / BigQuery DTS | trocco / Fivetran / Airbyte |
Structured Storage | 構造化データの正本・分析 | BigQuery | Snowflake / Databricks等 |
Unstructured Storage | PDF / 音声 / 画像の実体 | Cloud Storage | S3等 |
Open Table | GCS上の構造化データのテーブル管理 | Lakehouse for Apache Iceberg | Iceberg対応の他基盤 |
Modeling | Core / Mart / KPI | Dataform | dbt |
Federation | 外部データのコピーなし参照 | BigQuery federated query | Trino等 |
Object Access | 非構造化データとBQの接続 | ObjectRef / Object Table | 独自のメタデータ管理 |
Catalog | 所在・意味・関係・Lineage | Knowledge Catalog | DataHub / OpenMetadata / Atlan |
Orchestration | パイプライン実行管理 | Managed Airflow | Airflow / Dagster |
BI | 可視化 | Looker | Tableau / Power BI / Streamlit |
AI | 文書解析・エージェント | Gemini / Vertex AI / BigQuery AI | OpenAI等の他社LLM |
Googleで固定する価値が高いのは、BigQuery + GCS + ObjectRef周辺です。ObjectRefはBigQuery固有の機能なので、この接続を使うならこの3つはセットになります。
逆にIngestion・Modeling・Catalog・Orchestration・BI・AIは交換可能で、既存資産を優先してよい領域です。
dbtで作ってきたモデルをDataformに移行する必要はありません。
順序は4段で考えます。
まずBigQuery + GCS + ObjectRef / Object Tableで、構造化 + 非構造化の統合利用を作る。冒頭の要望への直接の答えがここです
データ・利用者・AIエージェントが増えてきたら、カタログを本格整備する
コピーする意味が薄い外部データは、Federationで論理接続する
Icebergは、複数エンジン共用・正本の独立という要求が実際に出てから導入する。最初から全面採用する必要はありません
最後に、調べる際に混乱しやすいので、製品名の現状を整理しておきます(2026年8月時点)。
BigLakeは2026年4月20日付で「Lakehouse for Apache Iceberg」に改称されました(API名・CLI名は旧称のまま残ります)。
BigLake metastoreは「Lakehouse runtime catalog」へ、Dataplex Universal Catalogは4月10日付で「Knowledge Catalog」へ改称されています。
機能の提供状況は、Iceberg Managed TablesとObjectRefはGA、Spark / Trino等との読み書き相互運用はPreviewです。
DWH構築の経験を前提に、レイクハウスの全体像を整理しました。
「議事録からも示唆を出したい」への答えは、いま持っているDWHの外側に、GCSという置き場とObjectRefという参照の層を足すことです。
DWHを捨てて作り直す必要はありません。Icebergもカタログも、必要になった時に足せばよいものです。
この記事が全体像を掴む一助になれば幸いです。
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