
# 営業マネージャー
# AI
「ChatGPT、営業で使ってみたんですけどね。」
「正直、そんなに変わらなかったです。」
この半年、この会話を何度もした。
誰も間違っていない。
AIも、その人も、サボってなどいない。
ただ、「使えなかった」の正体は、少しだけズレたところにある。
私自身、AIを使い始めたひとりだ。
いまも勉強しながら、お客様の現場に伴走している。
今日はその正体を、これまで回ってきた景色から書いてみたい。
最近、社内でAIの使い方を3つの層に分けて整理する機会があった。
BI……散らばったデータを、見えるようにする層
生成AI……問いに答え、たたき台を出し、示唆を返す層
AIエージェント……決めたことを、実際の業務として動かす層
多くの人が「AIを営業に使う」と言うとき、触れているのは、まん中の「生成AI」だけなのではないかと思う。
ChatGPTにメール文面を書かせる。商談メモの要点を整理させる。
たしかに便利だ。
でもそれは、「賢い壁打ち相手」であって、「営業を代わりに動かしてくれる誰か」ではない。
壁打ちは、うまくなっても壁打ちのままだ。
BIも似ている。
数字はきれいに見えるようになる。けれど、「で、明日どこに電話するの」には、答えてくれない。
見える化が進むほど、「見えているのに動けない」もどかしさだけが増えていく、という現場も見てきた。
3つの層は、どれも要る。
ただ、営業の成果に一番近いのは、いちばん地味な「実行」の層のほうだと思う。
PwCの調査でも、日本企業は生成AIの導入こそ進む一方で、その効果が期待を下回る企業が増えていると報告されている(出典: 生成AIに関する実態調査2025春/PwC Japanグループ)。
入れたのに、効かない。
その多くは、能力の問題ではなく、「どの層で止まっているか」の問題なのではないか、と私は感じている。
新しいメンバーが入ってきたとき、私たちは何をするだろう。
引き継ぎ資料を渡す。過去の商談の背景を話す。
「この会社はこういう温度感で、ここが地雷で、あの一言だけは絶対に言うな」と伝える。
ところがAIには、いきなり「いい感じの提案、作っておいて」と丸投げする。
新人になら当たり前にやる「文脈の受け渡し」を、AIには、していない。
営業の強さは、たいてい言葉になっていないところに宿っている。
前回の雑談で相手がふと漏らした本音。
決裁者と現場の力学。
「これは失注するな」という、匂いのようなもの。
その暗黙知が、どこにもデータとして残っていない。
残っていないものは、渡せない。
渡していないものを、AIは知りようがない。
野村総合研究所の調査では、生成AI活用の課題として70.3%が「リテラシーやスキル不足」を挙げたという(出典: IT活用実態調査2025/NRI(AI SMILEY 掲載))。
私はこれを、「渡し方を知らない」問題として読んでいる。
インテリジェンスで派遣営業をしていた頃、1日に5件から10件、飛び込みとテレマで回っていた。
あの頃、成果を分けたのは、商材の知識量ではなかった。
引き継ぎのときに、その人が「何を見て、何を感じていたか」まで渡せるかどうか。
人でもAIでも、たぶんそこは変わらない。
前職で、全国60社を超えるFC企業にMAツールを導入した。
多機能で、よくできた道具だった。
それでも、驚くほど形骸化する現場を、いくつも見た。
理由は、いつも似ていた。
「入れれば、なんとかなる」と思っていて、
「何を自動化したいのか」が、言葉になっていない。
AIも、同じ構造をしていると思う。
道具がどれだけ賢くなっても、「何をさせたいか」の問いが弱ければ、返ってくる答えも弱い。
ここは、あえて言い切らないでおきたい。
問いを立てるのは、思っているよりずっと難しい。私自身、日々ずれる。
ただ、少なくとも「AIが使えない」と結論づける前に、一度だけ、こう書き出してみる価値はあるのではないか。
——自分は、AIに、何を任せたかったんだっけ。
その一行が書けたとき、たぶん景色が少し変わる。
生成AIが返してくれるのは、あくまで示唆と、たたき台だ。
そこから先、実際に手足を動かすのは、別の層——エージェントの仕事になる。
たとえば、こういう景色を思い浮かべてほしい。
商談が終わる。
議事録が、勝手に出来上がっている。
必要な情報が、整理されてCRMに入っている。
次の一手のフォローメールが、下書きまで用意されている。
ここまで「実行」がつながって、ようやく「営業でAIが使えた」と言える気がする。
最近、ある支援先で、この流れを実際に回している。
商談のあと、たたき台の提案を生成AIに作らせ、そこで終わりにせず、内容をそのまま営業活動として自動でCRMに登録し、次のアクションまで残す。
派手さはない。
けれど、担当者が「議事録を書かなきゃ」「入力しなきゃ」と思っていた時間が、まるごと消えた。
消えた時間は、相手のことを考える時間に変わる。
生成AIだけを触っていた頃には、この「時間の移し替え」は、起きていなかった。
示唆と実行の間には、案外、深い谷がある。
その谷を越える設計をしないまま生成AIだけを触ると、AIはいつまでも、賢いままの壁打ち相手で止まってしまう。
「使えない」のではなく、「実行までつないでいない」。
多くの場合、順番はそちらだと思う。
ここまで自動化の話をしておいて、矛盾するようだけれど。
私はいまも、月に1回のゴルフのラウンドを起点に、1年がかりで人と人をつなぐような、ずいぶん遠回りな営業をやっている。
1,000名を超えるゴルフのコミュニティも、結局は一人ひとりの顔で回っている。
これはAIには渡せない。渡すつもりもない。
私がAIに任せたいのは、こういう時間を増やすためだ。
議事録も、入力も、下書きも、任せられるものは任せて、
空いた余白を、「あの人に会いに行く」に寄せていく。
「AIで仕事がなくなる」の、ちょうど反対側の話だと思っている。
使えないAIを嘆く時間より、AIに手放せるものを手放して、人にしかできないところへ体を運ぶ時間のほうが、たぶんずっと価値がある。
「あなたのAIは営業で使えない」——このタイトルは、少し挑発的に見えるかもしれない。
でも、責めるつもりで書いたのではない。
AIが悪いのでも、使う人が悪いのでもないと思う。
触れている層が、まん中の生成AIで止まっていて、
渡している文脈が、まだ足りていなくて、
させたいことが、まだ言葉になっていない。
それだけだ。
そして、そのどれもが、これから埋められるものだと思う。
もしこの文章を読んで、頭の中で何か動くものがあったなら——
「うちのAIは、いま、どの層で止まっているんだろう」と一度でも思えたなら、
この記事の役目は、半分は果たせた気がする。
その問いを、一緒に言葉にしてみたくなったときは、いつか一度、話してみたい。
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