
# 業務分解
# 新規事業
プロジェクトは立ち上がり、担当も決まり、メンバーはそれぞれのアクションを着実に進めている。定例会議では毎回、各担当から進捗が報告される。
それなのに、プロジェクト全体として前に進んでいる感じがせず、狙っていた数値も動かない。
私はデータとAIの領域で複数の会社の新規の取り組みを支援する中で、この状態を何度も見てきましたし、自社で新しい事業を立ち上げたときも、同じ状態に陥りかけました。
手が止まっているわけではないのに、前に進まない。
原因はメンバーの動きの量ではなく、マネジメントにあります。
プロジェクトは未知を扱う取り組みなのに、答えの分かっている日々の業務と同じやり方で管理されている。
この2つに必要なマネジメントは別物であり、使い分けられていない事が、プロジェクトを止めています。
会社の中の取り組みは、答えの分かっているものと、そうでないものに分かれます。
毎年の売上目標を追う日々の業務は前者で、やるべき事が分かっており、決まった手順があり、誰が何をやるかは職種で決まっていて、長く一緒に働く人たちの間には言わなくても分かる了解があります。新しく入った人も、先輩の仕事を見て覚えられます。
一方で、新しい事業を立ち上げる、既存事業のやり方を変える、基幹システムを入れ替えるといった取り組みは、その会社にとってやったことのない事であり、決まった手順も、言わなくても分かる了解もありません。
こうした未知の取り組みを、目的と期限を決めて進めるのがプロジェクトです。
つまりプロジェクトとは、往々にして未知を扱うものであり、決まった進め方が存在しません。
目的のために各部署から集められ、終われば解散する一時的な集まりが、会社の誰もやったことのない仕事に取り組みます。
だから、何をやるかを書き出すところから始めなければ、誰も動けません。
プロジェクト全体としては未知でも、中身をほどくと、すべてが未知なわけではありません。
自社で新しい事業を立ち上げたとき、決めなければならない事を並べると、どの業界の会社に売りに行くか、最初の商談で何を見せるか、月いくらで契約してもらうか、契約書はどの形式にするか、請求はどう立てるか、と大小あわせて数十になりました。
このうち契約書の形式や請求の立て方は、過去の契約書が社内にあり、顧問弁護士に聞けば足りるので、考え込む必要がありません。
答えはすでにどこかにあり、調べるか聞くかすれば手に入ります。
一方で「どの業界の会社が、月いくらなら契約してくれるか」の答えは、社内にないだけでなく、世の中のどこにもまだ存在しません。
相手はまだこちらの提案を見ておらず、見ていない提案への反応は、まだこの世にないためです。
存在しない答えは、社内で何時間議論しても、調査会社に頼んでも出てきません。
アンケートで「この商品が出たら欲しいですか」と聞けば「欲しい」と返ってきますが、財布を開く義務のない人の「欲しい」は当てにならないと思います。
答えがすでにある問い | 答えがまだ存在しない問い | |
|---|---|---|
例 | 契約書の形式、請求の立て方 | どの業界の会社が、月いくらなら契約してくれるか |
答えのありか | 過去の資料、社内の経験者、外部の専門家 | どこにもない。相手がまだ提案を見ていないため |
手に入れ方 | 調べる、聞く | 小さく試して、相手の反応を数字で取る |
決めた後にやる事 | 実行する | 出た数字で、描いた計画を書き換える |
この2つは、答えの手に入れ方も、決めた後にやる事も違います。
未知を扱うからといって、描かずに動き出してよいわけではありません。
決まった手順も、言わなくても分かる了解もない集まりでは、書き出されていない仕事は誰のものにもならないからです。
最初にやるのは、プロジェクトの全体を描き切る事です。
目的を一番上に置き、それを実現するための大きな方針に分け、方針を個々のアクションまで落とします。
自社の新しい事業であれば、「どの業界の会社に売りに行くか」という方針の下に、業界ごとの提案の組み立てがあり、その下に、話を聞きに行く、資料を作る、セミナーを開くといった個々のアクションが並びます。
戦略、作戦、戦術という言葉で呼ばれてきた階層です。
ここまで分解して初めて、担当と期限を決めて人に渡せます。
分解せずに進めると、動くたびにやるべき事が後から見つかり、やればやるほど残りが増えて、いつ終わるのか分からなくなります。
分解し切ってあれば、終わらせた分だけ残りが減っていきます。
ただし、描き切る事と、確定させる事は違います。
描いた中には、先ほどの「どの業界の会社が、月いくらなら契約してくれるか」のような、まだ答えの存在しない問いが含まれており、そこは確定のさせようがありません。
答えのない箇所は見立てで埋めて描き切り、どこが見立てなのかが分かる状態にしておきます。
綺麗に整理し終わるのを待って動き出すのでもなく、描かずに思いつきで動くのでもありません。
描き切った後の管理にも、型があります。
アクションを、どの方針のためのものかが分かる形のまま管理する事です。
自社では、売りに行く先を業界で分けています。
業界が違えば、刺さる話も、商談で会う相手の役職も、提案の組み立ても変わるため、同じ「話を聞きに行く」というアクションでも、業界ごとに中身は別物になります。だから業界ごとにアクションをつなげて管理します。
このつながりを切って、アクションだけを一列に並べて管理すると、リードに書いた症状が起きます。
個々のアクションはすべて進んでいるのに、どの方針が前に進んだのかを誰も言えず、全体の数値も動かない。
会議では、大きな方針の議論と、個別のアクションの報告が同じ場に並び、今日どれを決めるべきなのかが分からないまま時間が過ぎていきます。
もう1つの症状は、決裁の場で起きます。
計画は決裁を通さなければならないので、答えのない問いも見立てで埋めて起案する事になります。
問題は、通った瞬間に、まだ誰も答えを知らない事が「決まった事」になる点です。
予算も目標も決裁済みなので、後から見立てが違うと分かっても、簡単には変えられません。
そして決裁の場では、起案する側は確かめる前にできるだけ資料を固めようとし、決裁する側は数字の根拠を細かく問います。
ある支援先では、獲得見込みの試算について「仮説への依存が大きく、根拠の強化が必要」という指摘が議事録に残ったまま、議論は実際に確かめる方向ではなく、試算を細かくする方向に進んでいきました。
机の上で精緻にしても、存在しない答えは出てこないのですが、決裁の形式がそれを求めてしまうのです。
答えのない問いは、小さく試して確かめます。ただし、試す前に決めておく事が2つあります。
1つ目は、どの見立てから確かめるかです。
描いた全体の中には、それが崩れたらプロジェクト自体をやる意味がなくなる、という見立てが1つか2つ含まれています。
例えば「会社にAIの予算はあるのに、何をやるかを決められる人が社内にいない。だから、何をやるかを決めるところから支援すれば契約してもらえる」という見立てがそれで、これが違えば提供するものの形が変わります。
この種の見立てから先に確かめます。
2つ目は、何の数字がどれだけ動けば見立てが正しいと言えるのか、そして、どこまで届かなければやめるのかです。
これを先に決めずに試すと、結果が出ても「反応は悪くなかった」という感想で終わり、次の判断につながりません。
ここまでを並べると、プロジェクトの中で2種類の仕事が動いている事になります。
1つは、描く仕事です。
全体を仮説として描き切り、答えのない問いを試し、出た数字で描き直す。
これは一度で終わらず、プロジェクトの間ずっと続きます。
もう1つは、実行する仕事です。
答えがどうなっても変わらないもの、自社であれば提案の型、過去事例の整理、話の聞き方の手順は、描き直しを待たずに先に作り、実際に使って数値を固めていきます。
この2つは、どちらかが終わってからもう一方を始めるのではなく、同時に進みます。
戦略を描いている間、実行は止まっていませんし、実行が返してくる数字なしに、戦略は描き終わりません。
タイトルの「考えながら動き、動きながら考える」は、この状態を指しています。
答えの分かっている業務であれば、責任者の仕事は、進捗を管理し、上がってきた案を承認する事で足ります。
未知を扱うプロジェクトでは、それでは足りません。
担当者に案を出させ、一緒に考える。描いた全体の中で、崩れたらやる意味がなくなる見立てはどれかを見極める。何の数字を見るか、どこまで届かなければやめるかを一緒に決める。そして、試させる。出た数字で、描いた全体を書き換える。
ここまでが責任者の仕事になります。
逆に、担当者が持ってきた確かめ方に「それでは確実な結果が出ないから考え直せ」と突き返すのは、答えの分かっている業務のやり方です。
存在しない答えを確実に確かめる方法はなく、突き返された担当者は、形だけの確認をして「よく分かりませんでした」という結果を持ってくるようになります。
あなたの会社のプロジェクトは、どうでしょうか。
メンバーは動いているのに、数値が動いていないとしたら、責任者の目の前にある仕事は、進捗の管理でも案の承認でもなく、まだ誰も答えを持っていない問いを見つけて、確かめさせる事かもしれません。
知見・コラム
コラム
「使うたびに賢くなるAI」は、待っていても来ない
AIは使えば使うほど賢くなる、という言い方をよく見ます。私はこれを、半分だけ本当だと思っています。モデルは確かに進化します。ただ、自分の会社のやり方や、自分の文章の癖を、AIが使っているうちに勝手に覚えてくれることはありません。昨日直したことを、今日もまた直す。AIを業務で使っている方なら、覚えがあ...
2026/8/17
コラム
BigQueryのDWHを非構造化データへ拡張する:データレイクハウスの全体像
BigQueryでDWH(データウェアハウス)を構築すると、売上・顧客・広告といった構造化データを統合して分析できるようになります。そこに「議事録や過去の戦略資料からも示唆を出したい」という要望が来ることがあります。PDFやPowerPoint、音声はBigQueryのテーブルには入りません。本記事...
2026/8/12
コラム
AIの利用料を気にしなくなった代わりに、PCのメモリを心配しています
社内の情報基盤を作っていて、AIの利用枠を使い切りました。原因は、ラベル付けです。社内に散らばった資料や会話に、これは何の文書か、どの顧客の話か、決定事項か相談か、といった目印を機械的に付けていく処理があります。対象は2万件近くありました。順番に流していたら、途中で枠が尽きて止まりました。進んだのは...
2026/8/12
記事一覧へ
お役立ち資料
営業部門のAIエージェント活用ガイド|営業現場が変わる10の業務
ダウンロード
お役立ち資料一覧を見る
Contact
まずはお気軽にご相談ください
