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ソリューション営業、という言葉がある。
お客様の課題を起点に、その解決策を提案していく営業スタイル。
商品の特長を語る「モノ売り」との対比で語られ、定義としてはずいぶん前から市場に定着している言葉。(出典: ソリューション営業とは/リクルートマネジメントソリューションズ)
正直に言うと、私はこの言葉と、少し距離を置いて付き合ってきた。
言葉が悪いわけではない。
「お客様の課題を解決する営業であろう」という方向は、間違いなく正しいと思う。
ただ、現場でこの言葉が使われる場面に立ち会うたび、何か大事なものが抜け落ちたまま流通している気がしていた。
Deflag CROの岩瀬と申します。
AIエージェントを使った営業活動の自動化と、その手前にある営業組織の設計を、お客様と一緒に考えるのが日々の仕事だ。
MAコンサル、インサイドセールスの立ち上げ、CS事業の責任者を経て、100社を超える営業の現場を見てきた。
このコラムは、営業マネージャーや事業責任者の方に向けてAIが営業の仕事を大きく変えつつあるいまだからこそ、「ソリューション営業とは何か」というこの問いを、現場の景色からもう一度考えてみたい。
最初に、身も蓋もないことを書いてしまいたい。
お客様の声として上がってくる課題は、その大半が表層的なものだと、私は感じている。
誤解しないでほしいのは、お客様が嘘をついているとか、考えが浅いとか、そういう話ではまったくないということだ。
お客様は忙しい。日々の業務の中で、自社の課題を構造的に言語化する時間は、ほとんど取れない。
だから課題を尋ねられたとき、口をついて出るのは「いま目の前で困っていること」になる。それは自然なことだと思います。
「問い合わせが減っている」
「営業の入力が徹底されない」
「ツールが使いこなせていない」。
どれも本当に困っていることで、どれも事実。
ただ、その言葉をそのまま受け取って、そのまま解決策を当てにいくと、話は手段のレイヤーだけで完結してしまう。
課題解決型の営業のはずが、気づけば「言われた課題に、自社の商品を当てはめる営業」になっている。
これは営業個人の能力の問題というより、視点の話だと私は思っています。
同じ営業が、視点をひとつ変えるだけで、まったく違う課題に出会うことがある。
それを実感した場面の話をしたい。
あるお客様から、こんなご相談をいただいたことがある。
「CRMがうまく活用できていないんです」
入力が徹底されない。せっかく導入したのに、レポートも活かしきれていない。だから活用の支援をしてほしい——という、営業支援の現場ではとてもよくあるご相談。
このとき、「では、活用のための運用設計をしましょう」と返すこともできた。
それはそれで、ひとつの課題解決ではありました。
ただ、会話の中で、私はいくつかの問いを重ねさせてもらった。
そもそも、CRMで何が見えるようになれば嬉しいのか。
その数字は、会社のどの目標につながっているのか。
いまその目標と現状の差分は、誰がどう把握しているのか。
問いを重ねた先に出てきたのは、CRMの話ではなく別の課題でした。
粗利改善に向けて、顧客の状態と営業活動の実態が見えておらず、
KGIに対する打ち手が、現状との差分を踏まえたロードマップを描けていない——
これが、この会社の本当の課題だった。
「CRMが活用できていない」は、間違いではなかった。
ただそれは、この本質の一部が表層に顔を出した姿だった、ということだ。
CRMの活用支援だけをしていたら、おそらく数ヶ月後、同じ相談がまた別の形で上がってきていたと思う。
ロードマップが描けていないという本質に手が届いて初めて、CRMの運用設計も「何のためにやるのか」が定まった。
この経験は、私にとってソリューション営業という言葉の意味を組み替えるものだった。
ソリューション営業とは、お客様が語る課題を解く営業ではない。
お客様がまだ言語化できていない、本質の課題に一緒に出会いにいく営業なのだと思う。
では、表層から本質まで降りていくために、何が要るのか。
私は「構造化する力」と「問い力」の2つだと考えている。
構造化する力とは、お客様が言語化・整理できていないことを棚卸し、
必要要素の分類分けを行い、組み立てる力。
ここで大事なのは、視点の置き場所だと思う。
大きく分ければ、経営課題に対しての視点と、事業課題に対しての視点。
この2つを持てているかどうかで、同じヒアリングがまったく違うものになる。
「CRMの活用」は業務の話だ。
しかしその奥には「営業活動の実態が見えない」という事業の課題があり、
さらに奥には「粗利をどう改善するか」という経営の課題がある。
この階段を意識できていれば、
表層の言葉を聞いた瞬間に「この奥に何があるのだろう」という構えができる。
そしてもうひとつが、問い力。
構造の仮説を持ったうえで、それを確かめにいく問いを、会話の中で自然に重ねられる力だ。
尋問のようになってはいけないし、誘導になってもいけない。
お客様自身が「言われてみれば、そうかもしれない」と自分の言葉で気づいていく、
その伴走としての問いだ。
本当の意味でお客様のパートナーになる、というのは、
この2つの力の先にしかないのではないかと感じている。
ここでようやく、AIの話をしたい。
私は日々、営業活動の自動化をお客様と進めている立場だが、
その現場で感じているのは、
AIは営業の「調べる」「分析する」「準備する」の時間を、確実に短くしていくということだ。
業界の動向を調べる。商談前に相手の情報を集める。議事録をまとめ、CRMに格納し、フォローの文面を作る。
こうした作業や準備の時間は、すでにAIエージェントがかなりの部分を担えるようになってきている。
商品の説明をして、機能を比較して、見積もりを出す
——いわゆる「モノ売り」の部分も、情報提供としてはAIでの代替が進んでいくはずだ。
では、営業には何が残るのか。
「AIで営業の仕事がなくなる」という話に、私はしたくない。
現場で見えている景色はむしろ逆で、残るものの輪郭がはっきりしてきた、という感覚に近い。
残るのは、お客様が言語化できていないこと、整理できていないことを経営の観点で構造化し、本当に意味のある活動を導き出すまでの、問いのプロセスだ。
ここはAIが代わりに済ませてくれる領域ではない。
お客様の中にまだ言葉として存在していないものは、検索しても、分析しても、出てこないからだ。会話の中で、信頼の上で、少しずつ形になっていくものだと思う。
調べる時間と準備の時間が短くなるほど、営業の時間は「問い、構造化する」ことに使えるようになる。
だから私は、AI時代はソリューション営業が要らなくなる時代ではなく、ソリューション営業の定義がようやく本来の意味で問われる時代だと感じている。
「構造化する力と問い力は、どうすれば身につくんですか」
そう聞かれたら、私の答えは月並みなものになる。
“好奇心” と “疑う習慣” だ。
なぜそうなるのか。なぜそうなり得るのか。なぜそれで成り立っているのか。まず、そこに興味を持てること。
お客様の事業の話を聞いて、「この会社はなぜこの構造で利益が出ているんだろう」と素朴に面白がれること。
そして、興味を持った先で、嫌味ではなく、その理由の確認作業としての “疑う” を、コミュニケーションの中で実施していくこと。
「本当にそうなんですか?」と突きつけるのではない。「それって、こういうことでも起きたりしませんか」と、仮説を持って確かめにいく。
この繰り返しの中でしか、構造化する力も問い力も育たないと私は思っている。
特別な研修も、才能も、たぶん要らない。ただ、この習慣には終わりがない。私自身、いまも毎日の商談の中で、興味を持っては確かめて、外しては組み直して、を繰り返している。
まとめたい。
ソリューション営業とは、お客様が語る課題を解くことではない。お客様がまだ言語化できていない本質の課題に、一緒に出会いにいくことだと思う。
そのために要るのは、経営と事業の視点で組み立て直す構造化する力と、それを会話の中で確かめていく問い力。そしてこの2つは、好奇心と疑う習慣の繰り返しの中で育っていく。
AIが調べる時間と準備の時間を短くしてくれるいまは、この力を磨くには、たぶん過去いちばん恵まれた環境だ。
もしこのコラムを読んで、何か頭の中で動くものがあれば、いつか一度、お話ししてみたい。
皆さんの会社のお客様が最初に語る課題と、その奥にあるかもしれない本質の話を、一緒に眺めてみたい。
その会話自体が、きっとお互いにとってのソリューションの入り口になる気がしている。
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