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AIがSQLを書き、分析し、グラフやレポートまで出してくれるようになった時代、巷では、「データ分析者の仕事はなくなる」とも言われています。
これまで人間がやってきた、そして多くの人が内心やりたくないと感じていた作業、たとえばビジネス側の依頼に応じてSQLを書いてデータを抽出したり、他の人が書いたSQLをレビューしたりといった作業は、これから確かになくなっていくでしょう。
それでは、データ人材そのものが消えるのでしょうか?
私はそうではなく、データ人材の仕事は「組織の意思決定の土台づくり」へと変わり、むしろ重要性が増していくと思っています。
AIの台頭とともに、「ガードレール」という言葉がよく使われるようになりました。
ガードレールは、生成AIが想定外の動作をしたり、危険な出力、たとえば機密情報の漏洩や事実に反する回答を返したりしないよう、入力と出力を監視して制御する、安全のための仕組みです。
これからのデータ人材の役割は、いわゆる「組織の意思決定のガードレールを整備する人になっていく」と考えています。
約3年ほど前までは、データベース構造を理解してSQLを書けること、BIツールでダッシュボードを作れることがデータ人材の固有スキルであり、分析して示唆を出せることが価値でした。
SQLの記述、集計、分析、レポートやダッシュボードの作成といった作業は、いまやむしろAIの得意領域です。
これからのデータ人材に求められるのは、「何を意思決定するか」を決め、そして「AIを用いた組織の意思決定の土台を作る」ことです。
AIによって分析が民主化され、ビジネスサイド、さらに経営チームを含め誰にでもできるようになるほど、ミスリードを招く分析やレポートは一気に増えていくでしょう。
実際にクライアント様の中でも、AI化を素早く進めている組織ほど、誤った数値によるレポートも増えている事象を見かけます。
土台作りは、具体的には指標の定義を揃える事や、その定義を全社の仕組みに転換させる事、その定義をもとにAIエージェントに統制を与える事で実現していきます。
まず、どんな組織であれ最低限やるべきなのは、同じ用語が部署ごと、人ごとに違う数字を指している状態を、1つの定義に統一し、社内の定義を揃える事です。
例えば、何をもって1件の売上とするか、何をもって解約とするか、何をもって顧客と数えるか、といった定義を1つに決めます。
同じ用語でも、事業や部門をまたぐと別のものを指していることが多いためです。
「解約」というキーワードを1つとっても、契約が終了した時点で解約とカウントするのか、一時的な「休眠」を含めてカウントするのか、未払いを含めてカウントするのか、人によって解釈にブレがあると思います。
売上も同様に、受注した時点なのか、計上した時点なのか、検収が終わった後なのか、と、数え方はいくつも存在します。
SQLを書いて分析する人と、その結果を解釈して意思決定する人が分かれていた頃は、その間を繋ぐデータ人材が、その都度、意図を解釈して定義を揃えていました。
全社のあらゆるメンバーが自分でAIに聞くようになると、この食い違いは意思決定に影響します。
そのため、会社を動かす主要な指標から順に、「定義」をコードベースで管理できるレベルに、1つに固めます。
具体的には、セマンティックレイヤーをdbtのMetricFlowのような仕組みで主要指標の定義をコードとして書き、自然言語での問いと、コードでの集計を繋げる仕組みを作ります。
定義は、セマンティックレイヤーとして定めただけではAI時代には意味を持ちません。全社の生成AIツールにも、稼働しているAIエージェントにも、どこから問い合わせても参照される状態を作って意味を持ちます。
例えば、MCP等で、AIのチャットツールからセマンティックレイヤーを参照できるようにするなどです。
全社のあらゆるメンバーが、AIチャットへ指示するだけで自律的に動く分析エージェントを使って意思決定するようになると、データ人材の仕事の中心は、そのエージェントに「何を、どこまでやってよいか」を定め、統制を与えることになります。
ミスリードを招くのは「誤った数字が意思決定に混じる」ことだけではありません。
AIは平然と、「エラーではないが間違った数字」を返します。
テーブルの結合を誤ったり、集計の単位を取り違えたりしても、SQL自体は問題なく実行され、返ってきた数字も一見それらしく見えます。実行はできるのに答えが違う、といった種の誤りが最も気付きにくいです。
また権限の外にある機密のデータを読みにいったり、非効率なクエリによってスキャンするデータ量が膨らんで高額な費用が発生したり、目的に合わない誤ったテーブルを参照して見当違いの答えを返したりすることも起こり得ます。
全社のあらゆるメンバーが自分でエージェントに聞くようになると、利便性は高まりますが、一方でこういった問題も日常的に発生するようになります。
これを防止する手段は、「仕組み」と「人間の判断」があります。
「仕組み」でまず必ずやるべきは、分析AIエージェントが実行できる範囲をあらかじめ絞り込む事です。
エージェントがアクセスできるテーブルを限定します(例えば、特定のデータマートのみ解放する等)。
書き込みは権限上禁止し、読み取りの権限だけに絞ります。
AIにSQLを作らせる時は、セマンティックレイヤーを必ず参照させ、エージェントが自由にSQLを書くのではなく、「承認済みの指標定義の中から選ばせる」イメージです。
AIによる危険なSQL操作は、実行される前に止めるためのガードレールを設けます。
例えば1回のクエリで使えるAPI上限をあらかじめ決め、SELECT * は禁じ、また全レコードを取り出す操作は禁じて必ずWHEREを入れるように設計します。
そしてより重要なのは、「人間の判断」であり、これが、これからのデータ人材が担っていくべき範囲だと考えています。
「この分析結果を根拠に、この意思決定を下してよいか」を見極めるのは、最後は人、それもデータの専門家の仕事です。
この統制を設計できるのは、定義をつくって配ったデータの専門家です。
これまで常日頃から、問いを立て、軸を取り、分析設計を行い、意思決定へと接続してきたアナリストこそが、エージェントに与える統制を設計し、最後の見極めを担える人だと考えています。
そのうえで、重要な実行は人が承認し、エージェントが何を、なぜ実行したのかの記録を残して、後から監視し監査できるようにします。
データ人材は、依頼を受けてSQLやBIのタスクをこなし、分析結果を伝える役割から、全社の意思決定のガードレールを設計する人へと、役割を変えていくのではないでしょうか。
そこで問われるのは、何を測り、何を目指すのかを言語化し、同じ定義で全社の誰もが数字を語れる状態を作れ、そしてエージェントに正しい統制を与え、組織としての誤った意思決定を防げるかだと思います。
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