
営業生産性の改善を相談される場では、「うちの営業は忙しいのに数字が伸びない」「ムダな時間が多い気がするが、何にどれだけ取られているのか説明できない」という、問題が起点になることが多々あります。
問題は、生産性が低いことそのものではなく、生産性が何によって低くなっているのかを構造として説明できないという状態にあると考えます。
本記事は、株式会社Deflagの独自調査である『営業AI白書2026』(集計対象N=616、年商100億円未満の中堅・中小企業の営業職)をもとに、役職別の業務時間構造を可視化し、何が生産性向上の足を引っ張っているのかを、解説いたします。

まず、時間構造を分解する前に、業務をどう分類するかを整理します。
白書の定義に従って、営業職の業務を「コア」「ノンコア」「マネジメント」の3つに分けて扱います。
コア業務:商談など、売上に直結する業務
ノンコア業務:事務など、売上に直結しない業務
マネジメント業務(管理職のみ):社内会議・社内報告・部門間調整
直感的には、コア業務=お客様と向き合い売上に直結する時間 / ノンコア業務=売上に直結しない事務の時間 / マネジメント業務=管理職特有の社内業務、という対比で捉えていただいて差し支えありません。
提案書作成のように顧客ごとのカスタマイズが必要な業務はコア寄り、テンプレートからの見積書作成のように定型的な業務はノンコア寄り、と業務の定型性と判断の要否で分けています。
以下、営業活動で発生する業務を業務プロセスをベースに整理したものです。

ここから、白書のデータを使って全体像を確認していきます。
『営業AI白書2026』が示す最も大きな結論は、営業職は役職を問わず業務時間の40%以上(月あたり約70時間)を、売上に直結しないノンコア業務に費やしている、という事実です。
月間労働時間の中央値が170時間であることを踏まえると、170時間に40%強を掛けた約70時間が、事務や社内調整に消えている計算になります。
8時間労働換算では、月のうちおよそ9営業日分が、売上に直結しない時間に消費されているということです。
一方、顧客に向き合い売上に直結するコア業務に充てられている時間は、業務時間全体の50%以下にとどまっています。

集計対象:年商100億円未満の中堅・中小企業の営業職に従事する会社役員、会社員(N = 616)ここで強調したいのは、この40%以上・月70時間というノンコア比率が、特定の業界・特定の企業の問題ではなく、業界をまたいで観察される事実である、という点です。
『営業AI白書2026』の集計対象N=616は、特定業種に偏らず、年商100億円未満の中堅・中小企業の営業職を横断的にカバーしています。
そして、そのN=616全体の集計値として、40%以上・月70時間のノンコア比率が観察されています。
役職別の営業の業務時間の内訳を、白書の「役職別業務時間インデックス」をもとに、現場層から意思決定層の順に並べていきます。
注目していただきたいのは、ノンコアの比率だけでなく、中身がどう変化していくかです。
一般社員におけるノンコア業務の中身は、提案・見積、納品対応、CRMへの入力など、商談そのものではなく、商談の前後に発生する書類業務や事務処理が中心です。
商談に出向くこと自体はコア業務ですが、商談1件あたりに発生する「ノンコア業務」が積み上がる構図になっています。

係長・リーダー層は、一般社員よりノンコア比率は5ポイントほど高くなります。
増加分の中身は、特に提案書作りです。
プレイヤーとして案件規模が上がり、提案資料に求められる質も上がる結果として、ノンコアの「書類仕事」部分がさらに膨らみます。

中身が変化するのは、課長・マネージャー層からです。
係長までの「提案書・見積などの書類業務」が減らないまま、社内会議・報告といった管理職特有の社内調整が、上に積み上がってきています。
白書もこの構造を「プレイヤーとしての業務と、管理職としての業務が二重に積み上がっている」と表現しています。
比率としてのノンコアは係長より3ポイント低くても、内訳としては「種類が増える」「重なる」という方向に変化しています。

部長層でも、提案・見積などの書類仕事は減りません。
それに加えて、社内会議・報告という管理職特有の社内調整がさらに重くなります。
白書はこの状態を「管理職特有の調整が時間を圧迫している」と見ています。
部長になれば現場の書類仕事は手放せて、マネジメントに集中できる──というイメージは、データ上は成り立っていません。

役員のノンコア比率は約50%と、調査対象の役職の中で最も高い数字になります。
中身は「書類の作成・承認」業務が中心。
本来、経営者・役員が時間を費やすべきマネジメント業務(組織の方向付け、人材育成、戦略判断)や、顧客・外部リレーション(重要顧客との関係、社外パートナーとの調整)などのコア業務に、十分な時間を割けない構造が観察されています。

役職別のノンコア比率を一覧で並べると、次のようになります。
役職 | ノンコア比率 | ノンコアの主な中身 |
|---|---|---|
一般社員 | 43% | 商談前後の書類・事務(提案・見積・納品対応) |
係長・リーダー | 48% | 提案書作りが特に多い |
課長・マネージャー | 45% | 書類仕事 + 社内調整の二重構造 |
部長 | 42% | 書類仕事 + 社内会議・報告 |
経営者・役員 | 約50% | 書類の作成・承認業務 |
この結果から、全役職を通じてノンコア業務が業務時間の半分前後を占める時間構造になっていることがわかります。
役職によって業務内容に差はあれど、10時間働いて、4〜5時間が売上に直結しない事務・調整に消えている。
これが、中堅・中小企業の営業組織で役職を問わず観察される時間の使われ方だということです。
ここまで、白書のデータを使って、中堅・中小企業の営業職の時間構造を役職別に分解してきました。
データを踏まえ、「うちの営業は忙しいのに数字が伸びない」という課題を「個人」ではなく「構造」として捉え直すことには、議論の質を変える意味があります。
「営業の生産性が低いのは、現場の頑張りが足りないからだ」で片付けてしまうと、議論はそこで止まります。
本当の課題が特定できず、改善は個人の工夫に丸投げされ、結果として何も変わらない。
一方で、「業務時間の40%以上が、構造としてノンコアに流れている」「役職が上がっても、その構造は変わらない」と捉え直すと、議論の焦点が個人の頑張りから、業務プロセスそのものへと動きます。
どの役職の、どの業務に、どれだけの時間が割かれているのかが見える状態であれば、「この書類仕事の手順を変える」「この社内会議の頻度を下げる」「この承認フローを再設計する」といった具体策の議論が成り立ちます。
「うちの営業の頑張りが足りない」 から 「業務プロセスのどこに時間が消費されているか」 へ
「とにかくムダを削ろう」 から 「役職ごとに重くなっているノンコア業務の中身を見て、書類仕事と社内調整、どちらから手をつけるかを決める」 へ
「新しいツールを入れれば解決する」 から 「ツール導入の前に、業務プロセスをどう再設計するかを議論する」 へ
中堅・中小企業の営業職は、役職を問わず月70時間を売上に繋がらない時間に費やしており、これは個人の問題ではなく業界横断の構造課題である──この結果を、自社の議論の出発点に据えていただけると幸いです。

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