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データ成熟度(データマチュリティ)は、自社が今どのくらいデータを扱えているかを、複数の軸で段階として捉える考え方です。
AI活用が推進される今、活用すべき考え方のひとつです。
本記事は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の『データマチュリティ読本』をもとに、概念の定義と成り立ち、代表的なマチュリティモデルの種類、レベル0〜5の各段階、そして自社を確認する6つの評価軸と、確認したあとの打ち手までを順に整理します。
データ成熟度とは、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の『データマチュリティ読本』(2024年12月)で、次のように定義されています。
データを使いこなし、データの価値の最大化とリスクの最小化を持続的に行え、組織が最大のパフォーマンスを出しているのかどうかを、明確化し、改善するための考え方です。
出典: データ経営の総合力を高める データマチュリティ読本 — IPA
つまり、自社が今どのくらいデータを扱えているかを、複数の軸で見える化する考え方です。
売上や利益のような一本の指標で表すのではなく、データを扱う組織能力を、複数の観点で並べて段階的に評価するのが特徴だとご理解ください。
大切なのは、この考え方が「良い/悪い」の二元論ではない、という点かと思います。
あくまで「いま自組織はどの段階にいるのか」を明らかにし、次に目指す段階をイメージするために設計されています。

そもそも「成熟度モデル」という考え方は、ソフトウェア工学の分野で生まれました。
ルーツをたどると、1986年、ソフトウェア開発の能力評価のための枠組みを開発したのが始まりです。
翌1987年には、5段階のレベルで開発プロセスを評価する「Capability Maturity Model(CMM)」の原型が提示されました(出典: Watts Humphrey — Software Engineering Institute)。
この考え方がデータ分野へ本格的に応用されたのは、比較的最近のことです。2014年8月にデータ領域の成熟度モデルとして体系化された最初期のものにあたります(出典: Data Management Maturity Model — CMMI Institute)。
日本での本格的な整理は、さらに新しく、2024年12月にIPAが「データマチュリティ読本」を発行したことが1つの節目になりました。
加えて、経済産業省とIPAは、2026年4月のデジタルスキル標準改訂で「データマネジメント」を新たな役割類型として追加し、2027年度からは「データマネジメント試験(仮)」の新設を予定しています(出典: AI時代に不可欠なデータマネジメント — METI Journal ONLINE)。
つまり、成熟度モデル自体は1980年代からある発想ですが、データ分野で体系化されたのが2014年、日本の公的機関がAI時代を見据えた形で整理し始めたのが2024年、というのが現在です。
昔から存在していた考え方が、なぜ最近重要視されるように鳴ってるのか。
それは、生成AIやAIエージェントの登場によって、AIに何を答えさせられるかが、AIそのものの性能よりも「自社データの状態」で決まるようになったからです。
このことは、Gartnerの調査にも表れています。
2024年第3四半期に実施されたデータマネジメント責任者248名への調査では、63%の組織が「AI向けの適切なデータマネジメント慣行を持たない、または持っているか分からない」と回答しました。
(出典: Lack of AI-Ready Data Puts AI Projects at Risk — Gartner(2025年2月26日))
「AIを入れたのに使いこなせない」「思ったより成果が出ない」という声の裏側は、多くの場合、AIの賢さそのものではなく、その手前のデータ側の話に行き着きます。
AIの話が盛り上がるほど、その手前の「うちのデータはどのくらい扱える状態か」を段階として評価する視点が必要になります。
データ成熟度が今あらためて重要視されているのは、この構図によるところが大きいのではないかと思います。
IPAの『データマチュリティアセスメント解説書』は、データマチュリティを把握するメリットとして、まず「データ利活用の全体を俯瞰し、改善点・問題点を抽出できる」ことを挙げています(出典: データマチュリティアセスメント解説書 — IPA)。
「CRMは入っている、BIも見ている、SFAで数字は追える」といったように、個別のシステムでは、それなりに整っている実感はある。
しかし、経営やDX推進の側から全体を眺めようとした瞬間に、「じゃあ全部あわせて、うちのデータ活用は今どんな状態なのか」はすぐに確認できない。
個別の点は見えているのに、面として俯瞰できていない、という状態です。
データ成熟度は、この俯瞰を助ける考え方として機能します。
IPA読本では、利用・データ・ツール基盤・リーダーシップ・文化・スキルという6つの軸で自組織を捉え、それぞれの軸の状態をレーダーチャートのように可視化する形が示されています。
全体を1枚の図に落とすことで、「うちは利用と文化はあるが、データとツール基盤が弱い」といった凸凹が浮かび上がってきます。
2つ目のメリットは、「データ利活用を次の段階に進めるためのステップがわかる」ことだとされています
成熟度モデルの本質は、レベル分けにあります。
「良い/悪い」ではなく、「今この段階なので、次はこの段階を目指す。そのためにはこの領域の打ち手が必要」という段階像で捉えることが、この考え方の価値です。
3つ目のメリットとして、「競合他社と比較して自社が立たされている状況を把握できる」ことを挙げています(出典: データマチュリティアセスメント解説書 — IPA)。
共通の評価軸で自社と他社を並べて評価できるため、業界内での自社の位置がつかめます。
「うちだけが遅れているのでは」という不安や、「うちは進んでいるはず」という思い込みを、実際の評価結果として確かめられるようになります。
4つ目のメリットは、「定期的な測定とノウハウ蓄積により、新たなビジネスチャンスが生まれる」ことです(出典: データマチュリティアセスメント解説書 — IPA)。
成熟度は、一度確認して終わりではありません。
同じ軸で継続的に評価し直すことで、各軸の変化や打ち手の効果が追えるようになります。
社内にノウハウが蓄積されるにつれて、以前は気づけなかった課題や事業機会が、具体的に議論できるようになるというのがこのメリットの意図です。
データマチュリティ(データ成熟度)をどう測るかを定めた枠組みが、マチュリティモデルです。
データを使いこなす組織力を測るモデルと、データマネジメントに特化したモデルがよく使われます。
以下の代表的なモデルを紹介します。
『データマチュリティ読本』は、IPAが2024年12月に発行した、日本語で参照できるドキュメントです。
海外の政府機関などで使われてきた先行モデルを比較・整理したうえで、利用・データ・ツール基盤・リーダーシップ・文化・スキルの6つの評価軸で組織のデータ活用力を捉える形を示しています(出典: データマチュリティ読本 — IPA)。
モデルの系統としては、組織力を測るモデルにあたります。
あわせて公開されている『データマチュリティアセスメント解説書』は、評価項目のチェックから自己評価、結果の活用までの自己診断の進め方をまとめたものです(出典: データマチュリティアセスメント解説書 — IPA)。
IPAは今後、評価に使う軸を策定していく予定としており、日本企業向けの整理はこれから拡充されていく段階にあります。
DMM(Data Management Maturity Model)は、CMMI Instituteが2014年8月に発行した、データマネジメントの業務プロセスの成熟度を測るモデルです。
データマネジメント戦略・データガバナンス・データ品質・データオペレーション・プラットフォームとアーキテクチャの5つのカテゴリのもとに、20のデータマネジメントプロセス領域と5つの支援プロセス領域を整理しています(出典: Data Management Maturity Model — CMMI Institute)。
「データ成熟度の歴史」で触れたとおり、データ領域の成熟度モデルとして体系化された最初期のものにあたります。
組織の雰囲気や個人のスキルよりも、データを管理する業務プロセスが確立しているかどうかに重心を置いた作りです。
CMMI(Capability Maturity Model Integration)は、「データ成熟度の歴史」で触れたCMMの流れをくむ、組織のプロセス全般の成熟度を測る枠組みです。
前述のDMMは、支援プロセス領域をこのCMMIのプロセス領域に基づいて構成しています。
DCAM(Data Management Capability Assessment Model)は、業界団体EDM Councilが策定・維持しているモデルで、データ戦略やガバナンス、アーキテクチャなど8つの構成要素ごとに、組織のデータマネジメント能力を評価します(出典: DCAM — EDM Council)。
DMMと同じく、データを管理する仕組みが確立しているかどうかを測る系統のモデルと言えます。
一方、データが意思決定にどれだけ使われているかという、活用度の側から測るモデルもあります。
DeloitteがGoogle News Initiativeの支援を受けて実施した調査『Global Data Maturity Report』では、データを洞察として意思決定に活かせている度合いを、Nascent(初期段階)からLeading(先進)までの4つのレベルで評価しています(出典: Global Data Maturity Report — Deloitte)。
英国のData Orchardが公開しているデータ成熟度フレームワークは、利用・分析・データ・ツール・リーダーシップ・文化・スキルの7つのテーマを5つの段階で評価するもので、非営利組織向けに設計されています(出典: What is data maturity? — Data Orchard)。
IPAの『データマチュリティ読本』も、先行例のひとつとしてこのフレームワークを参照しています。
モデル選びは、自社が何を測りたいかで決まります。
データを管理する業務プロセスがどこまで確立しているかを測りたいならDMMやDCAMのような管理プロセス型。
組織全体としてデータを使いこなせているかを測りたいなら、IPA読本やData Orchardのような組織力型が向いています。
日本企業が自己診断の出発点にするなら、日本語で参照でき、評価の視点と対応例まで示されているIPA読本が使いやすいのではないかと思います。
本記事では、IPA『データマチュリティ読本』のモデルを用いたレベル確認方法を整理します。
『データマチュリティ読本』は、データ成熟度を捉えるための評価軸として、次の6つを示しています。
利用:意思決定の場で、勘や経験ではなく、データに基づいた議論が行われているか
データ:顧客名や商品名など、社内で使う言葉の定義と管理は揃っているか
ツール基盤:誰がどのデータにアクセスできるかが管理され、必要なときに共有できる仕組みがあるか
リーダーシップ:データ活用や整備を推進する責任者は、明確に位置づけられているか
文化:現場が積極的にデータを取得し、活用しようとする雰囲気があるか
スキル:データ関連の教育・研修が、社内で継続的に行われているか
次に、6軸それぞれに後述するレベルの割り振りを行い、6角形のレーダーチャートを作成します。
この6軸で自社を評価するときに大切なのは、平均点ではなく、軸ごとの凸凹の形です。
たとえば、同じ「平均レベル2」でも、「利用と文化の軸は高いが、データとツール基盤の軸が低い会社」と、「基盤は整っているが、リーダーシップとスキルの軸が弱い会社」では、次に打つべき手が異なります。
前者は基盤への投資が優先順位の高い一手になり、後者は責任者の任命や人材育成のほうが先になります。
では、それぞれのレベルがどのような状態を指すのかを見ていきます。

『データマチュリティ読本』は、モデルの評価レベルを6段階で整理した目安として、レベル0「管理されていない」からレベル5「最適化された」までを示しています。
名称から読み取れる各段階の状態感を整理すると、次のようになります。
レベル0 管理されていない:手順や役割が定まっておらず、担当者の裁量に依存している
レベル1 初期:個別の取り組みは始まっているが、標準化はされていない
レベル2 立ち上げ:一定の手順が整い、繰り返し実施できるようになっている
レベル3 定義された:全社の標準として手順や役割が明文化されている
レベル4 測定し管理している:定量的な指標に基づいて管理・改善が行われている
レベル5 最適化された:継続的な改善が仕組みとして回っている

レベル0〜1は、データが個人や部門の中に閉じている段階です。
データ自体は存在していても、個人のExcelファイルや部門ごとのツールの中にあり、集計のたびに手作業でかき集める形になります。
手順や役割が決まっていないため、担当者が変わると数字の出し方も変わります。
レベル1になると、特定の部門でダッシュボードを作るといった個別の取り組みは始まっています。ただし全社の標準にはなっておらず、その担当者が異動すると取り組みが止まってしまう段階です。
レベル2〜3は、データが全社で共有・管理され始める段階です。
レベル2では、データの集計や管理に一定の手順が整い、同じ作業を繰り返し実施できるようになります。定例のレポートが、誰が担当しても同じ手順で出てくる状態です。
レベル3では、その手順や役割が全社の標準として明文化されます。
顧客名や商品名といった社内の言葉の定義が揃い、データの管理ルールが文書になり、管理の責任者が明確になります。個人の工夫だった運用が、組織の仕組みに変わる境目です。
レベル4〜5は、データが意思決定と価値創出を動かす段階です。
レベル4では、データの品質や利用状況そのものが定量的な指標で管理され、指標に基づいた改善が行われます。「データが使われているか」を、感覚ではなく数値で把握している状態です。
レベル5では、その改善が継続的な仕組みとして回ります。
データを起点に意思決定が行われ、新しい施策や事業機会の議論もデータから生まれる状態です。ただし、すべての軸でレベル5を目指すことが常に正解とは限りません。
どこまで引き上げるかは、自社のリソースと事業の優先順位から決めるものです。
成熟度の確認は、それ自体が目的ではありません。
確認のあとにやることは3つあります。
凹んでいる軸から着手する、軸ごとに目標レベルを決める、同じ物差しで測り直す、の3つです。
最初の着手点は、レーダーチャートで最も凹んでいる軸です。
前章の例で言えば、利用と文化は高いがデータとツール基盤が低い会社であれば、新しい分析の企画よりも先に、言葉の定義とデータの管理ルールを揃えるほうが効果を見込めます。
凹んだ軸を放置したまま高い軸をさらに伸ばしても、全体のデータ活用は凹んだ軸のところで詰まりやすくなるためです。
そして、あわせて決めたいのが、軸ごとの目標レベルです。
すべての軸でレベル5を目指す必要はなく、「データとツール基盤を1年でレベル2から3へ」のように、凹んでいる軸に絞った目標のほうが、打ち手も予算も具体的になります。
自社のリソースと事業の優先順位から、無理のない目標を軸ごとに置きます。
では、凹んでいた軸ごとに何をするか。
軸ごとの最初の一手の例を整理すると、次のようになります。
軸 | 打ち手の一例 |
|---|---|
利用 | 経営会議の資料に、判断のもとになった数字と出所を載せることをルールにする |
データ | データ管理責任者を置き、組織全体で統一された状態でデータを管理する |
ツール基盤 | 全社共通のID基盤でデータへのアクセスを管理し、主要な数字を誰でも見られるダッシュボードを整える |
リーダーシップ | 実務を担うCDOにあたる責任者を役員クラスで1人決め、組織全体のデータ戦略を示してもらう |
文化 | データを入力・取得すると業務の負担がどう減るかを現場に示し、実践できている部門の例を社内で共有する |
スキル | データの読み方・使い方の研修を、一部の担当者ではなく全社員向けに定期開催する |
打ち手を実行したら、同じ軸・同じ評価項目で測り直します。
社内にデータの責任者が立っている場合はその人が中心となり、責任者がいない場合は、部門横断でデータの状況を把握できる担当者(DX推進や情シスの企画職など)が実施主体になる形になります。
必要に応じて、外部のコンサルの支援を組み合わせるパターンもあります。
実施の頻度に決まったルールはありませんが、事業戦略の見直しや、大きな投資判断の前など、半年〜1年に一度のペースで確認するケースが多く見られます。
継続的に評価し直すことを前提とした考え方であり、一度で終わらせないことが、本来の使い方になります。
ここまでの内容を整理しておきます。
データ成熟度(データマチュリティ)は、自社が今どのくらいデータを扱えているかを、複数の軸で見える化する考え方です。
IPAが2024年12月に公開した『データマチュリティ読本』が、日本語で参照できる枠組みとしてまとまっています。
確認の視点は、利用・データ・ツール基盤・リーダーシップ・文化・スキルの6軸と、レベル0〜5の6段階です。大切なのは平均点ではなく、軸ごとの凸凹の形。
どの軸が下がっているかを見ることで、次に打つべき手が具体的になります。
確認したあとは、凹んでいる軸に絞って目標レベルを決め、打ち手に落としていきます。
実施は一度で終わらせるものではなく、半年〜1年に一度、同じ軸で評価し直すことで、各軸の変化や打ち手の効果が観察できるようになります。
この積み重ねが、自社のデータ活用を段階的に前へ進めていく方法になります。
なお、データの整備状況をAI活用の前提として捉える考え方は、AI-Readyとはで整理しています。本記事を、自社の議論の出発点として使っていただけると幸いです。
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