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9月、ある採用サービスが4,000万ドルを調達しました。
求職者と企業の両方にAIをつける、Jack & Jillというサービスです。
求職者の側には「Jack」というAIがついて、経験や希望を聞き取ります。
企業の側には「Jill」というAIがついて、求人票を読み、その仕事で活躍する条件を詰めます。
2つのAIが「合う」と判断すれば、求職者は応募書類を出すことなく、採用担当者に直接紹介される仕組みです。
その翌月には、人材サービス大手が転職仲介でアドバイザーの関わる比重を高めている、という報道がありました。
パーソルイノベーションについては、AIによる全自動の仕組みを見直したと伝えられています。
AIで、人の仕事をどこまで置き換えられるのか。
人材紹介の業界でも、関心が高まっているテーマです。
私のキャリアの出発点は、人材ビジネスでした。
今もDeflagとして、人材紹介会社の経営者や現場責任者の方とお話しする機会が多くあります。
ただ、そこでCA(キャリアカウンセラー)をAIに置き換えたい、という声を聞くことは実はあまりありません。
よく伺うのは、
「一次対応に追われて、提案に時間を割けない」
「育成がエースに集中している」
という話題です。
CAの仕事は、AIに置き換わるのか。
私は、置き換えるかどうかを考える前に、AIに任せる仕事と、人にしかできない仕事の線をどこに引くかを考えるべきだと思っています。
その線の引き方で、決定数を左右する転換率が変わるからです。
冒頭の採用サービスが公表している数字では、これまでに35万人の求職者がAIと会話し、5,000社が利用しています。
設定された面談は2万5,000件で、足元では月に5,000件の面談が組まれているそうです。
AIが条件を照合すれば、会う人の数はここまで増やせる。
これは確かに大きな変化です。
ただ、その面談のうち何件が採用につながったかは、公表されていません。
会う人の数が増えたことと、決まる人の数が増えたことは別の話です。
一方で、人を介さない仕組みを検証し公表した大手事例もあります。
パーソルイノベーションは9月、登録から応募の意思を固めるまでを、人を介さずに支援する検証を進めていると発信していました。
将来は、内定や就業まで人を介さずに進めることを目指していたそうです。
同時に、CAの支援を受けたい人もいれば、人を介さない支援を使いたい人もいるだろうとして、両方を用意して使い分けるともしていました。
しかしその翌月の報道では、CAが関わった方が転職後の年収が高くなったケースも多いとされています。
同社の大浦征也社長は「AIはキャリアアドバイザーが仲介した際の転職決定率には勝てない」と話されています。
同社の若年層向けの転職支援サービスを見ても、AIが担っているのは面談予約の電話や模擬面接です。
90分の初回面談・書類づくり・企業への推薦・面接対策・内定までの伴走はCAが担っています。
AIにできるのは、条件の合う人を、面談や応募まで進めるところまで。
決まるかどうかはその先の工程で決まります。
そしてその工程では、今のところ人が関わったほうが結果が出ているようです。
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人材紹介の決定数は、次のように表せます。
決定数 = 稼働している求職者数 × 推薦率 × 書類通過率 × 内定率 × 承諾率
AIで事務作業を減らしても、この式のどこかの率が上がらなければ、決定数は増えません。
関連記事:人材紹介のAI活用が業務効率化で止まる理由|面談設定率・応募率が上がる会社は何をしているか
では、どの率をAIが上げられて、どの率は人にしか上げられないのか。
工程ごとに「ここはAI、ここは人」と分けたくなりますが、私は1つの工程ごとではなく工程の中に線を引くほうが実態に近いと考えています。
どの工程にも、条件で決まる部分と条件以外で決まる要素が混ざっているからです。
ここで言う条件とは、職種、年収、勤務地、経験年数のように、文字で書けて照合できるものです。
条件以外にあるのは、求職者の本音と、企業の担当者との関係の中でしか動かないことです。
AIと求職者を担当するCA、企業を担当するRA(営業)を工程ごとに並べると次のようになります。
工程 | AIに任せる(条件の照合) | CAが担う(求職者の本音) | RAが担う(企業との関係) |
|---|---|---|---|
面談設定 | 登録直後の連絡、日程調整、基本情報の確認 | 迷っている人に、会う理由を伝える | ― |
求人提案・推薦 | 希望条件と求人の照合、候補の絞り込み | 本音から優先順位を決め、提案の順番を変える | 求人票に書いていない選考基準を聞いておく |
書類・面接 | 経歴の整理、書式、想定質問 | 言葉にできていない強みを、言葉にする | 面接後に評価と迷っている点を聞き、補う情報を渡す |
内定・承諾 | 条件の比較、連絡の下書き | 家族や現職の事情を含めた迷いに向き合う | 年収・入社日・ポジションを交渉する |
条件は文字で書けるので、AI同士でも照合できます。
冒頭の採用サービスが、求職者と企業の両側にAIを置いて行っているのもこの部分です。
パーソルイノベーションも、職種を絞った人材紹介は条件がそのまま合う割合が高く、登録してすぐに電話すれば、その場で応募につながることが多いと説明しています。
ここで大事なのは、速さです。
連絡が1日遅れるだけで、求職者は先に連絡をくれた他社で動き始めます。
一次対応をAIに任せるのは、CAの時間を空けるためだけではありません。
速さで転換率が決まる工程だからです。
CAにしかできないことは何か。
私は、本音を聞けることだと思っています。
求職者が最初に話す希望は、たいてい表向きのものです。
年収を上げたい。残業を減らしたい。
話を重ねていくと、その奥にある理由が出てくることがあります。
たとえば、希望は「年収アップ」だった方が、何度か話すうちに「今の上司の下を早く離れたい」と打ち明けてくれる。
そうなると、提案する求人の優先順位が変わります。
年収が少し下がっても、配属先のチームの様子を事前に確かめられる求人のほうが、その方にとっては納得のいく選択になるかもしれません。
AIは、求職者の話した内容が本音なのか・表向きなのかを確かめる手段を持っていません。
人がコミュニケーションをとり、信頼してもらって、ようやく出てくるのが本音です。
本音が分かると、変わることが3つあります。
・提案する求人の順番。
・書類で前に出す強み。
・内定後の迷いへの向き合い方。
強みについては、こんなこともあります。
求職者は、自分の経験や強みを、自分ではうまく言葉にできないことがあります。
一人で書類を書くと、経歴は十分なのに通らない、という現象です。
CAが話を聞き、その人の経験を客観的に整理し最も魅力の伝わる言葉に直すと、結果が変わる。
これも、照合する条件以外にある仕事です。

人にしかできない仕事は、もちろんRA側にもあります。
RAが担う、面接後のやり取りと交渉です。
RAの方とお話しするとき、私はここが一番大事だという話をよくしています。
面接が終わったあと、企業の担当者に電話をかける。メールで様子を伺う。
そこで初めて出てくる話があります。
見送りの本当の理由。企業が迷っているポイント。もう一押しになる情報。
求人票には書かれていない選考の基準も、担当者との関係ができていれば聞けるようになります。
そして、交渉です。
年収、入社日、ポジション。
求職者と企業の間に立って、双方が納得できるところを探していきます。
たとえば、面接での評価は高かったものの、企業が年収で迷っている。
RAが担当者に電話で事情を聞き、求職者がこれまでに出してきた成果を改めて伝えたうえで、入社日を調整する。
それで内定が出る、ということもあります。
これは営業の仕事です。
人間関係とコミュニケーションを積み重ねて動く部分なので、データがどれだけそろっても、人が担う必要があります。
先ほどの報道では、アドバイザーが関わったほうが、転職後の年収が高くなったケースも多いとされていました。
その理由を私が断定することはできませんが、この交渉の部分は大きいのではないかと考えています。
冒頭の採用サービスでは、求職者と企業の両側にAIをつけます。
両方のAIが照合できるのは、文字で書かれた条件まで。
しかしそれだと条件の照合では差がつかなくなります。
決定率の差は、本音と交渉に人の時間をどれだけ回せるかで生まれる。
私はそう考えています。
私が見てきた範囲では、エースと他のCAの差は、推薦から承諾までの転換率に表れやすい傾向があります。
どの求人を、どの順番で、どう伝えるか。
その判断の差が、決定数の差になっています。
この工程は、本音と交渉で決まる部分が大きい工程です。
一次対応や書類の整理に追われていると、ここに時間を回せません。
AIが条件の照合と段取りを引き取れば、全員の時間が本音と交渉に寄ります。
「一次対応に追われて、提案に時間を割けない」という悩みは、ここで改善されるはずです。
もう1つ大事なのが、エースのやり方をチームで使えるようにすること。
求職者と求人を結びつけるコツは、エース本人に聞かないと分かりません。
新しいCAはエースに聞くしかなく、エースの時間は確認対応で細かく途切れていきます。
面談の録音や録画があれば、どう本音を聞き、企業に何を伝えているかを取り出して、チームで振り返る材料にできます。
パーソルイノベーションでも、面談の録画と文字起こしをAIが分析し、その結果をもとにマネジャーがCAにフィードバックしているそうです。
ベテランの判断を組織に残す話は、以前のコラムでも書きました。
ただし、AIで練習相手はつくれても、本番で本音を聞くのはCA自身です。
育成でAIに任せるのは、振り返りの材料をそろえるところまでだと考えています。
では、AIとCAの線引きはどこから始めればよいのでしょうか。
全社で一斉に始めるより、1つのチーム、1つの工程に絞るほうが、変化が見えやすくなります。
進め方の一例です。
①対象を決める
たとえば、1チームの「求人提案」の工程を選びます。
②始める前の数字を確認する
推薦から承諾までの転換率と、条件の照合にかかっている時間を記録しておきます。
③工程の中に線を引く
条件の照合はAIに任せ、本音を聞くことと企業とのやり取りは、CAとRAが担います。
どこからが条件以外なのかは、現場責任者とCA・RAで話し合って決めます。
④数字と実感の両方で振り返る
転換率がどう変わったかと、AIを使ってみた実感を、現場責任者と対象のCA・RAで確かめます。
⑤うまくいった工程だけを広げる
変化が確かめられた工程から、ほかのチームに広げていきます。
どこまでをAIに任せ、どこからを人が担うのか。
自社の工程で線を引こうとすると、迷うところが出てくると思います。
Deflagは、人材紹介会社の業務を工程ごとに整理し、どこにAIを組み込むかを決めるところから、実装と効果の検証までを支援しています。
人材紹介会社向けのAI活用事例集もご用意していますので、自社ではどの工程から始めるとよいか、検討の材料にお使いください。
まずは、今どの工程に時間を取られているかを聞かせていただければと思います。
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「AIはCAが仲介した際の転職決定率には勝てない」
AIを使った転職支援を進めてきた会社の社長の言葉として、報道で目にしました。
ただ、これはAIを使うなという話ではないと思います。
AIは条件の照合や段取りを、人より速く、たくさんこなせます。
だからこそ、人の時間を、AIに任せられない仕事に集めることができる。
ここで書いた線は、私がこれまで見てきた範囲での考えです。
扱う領域や求職者の層によって、引くべき位置は変わると思います。
それでも、AIを両側に置ける時代に問われるのは、AIで人を減らすかどうかではありません。
空いた時間を、求職者の本音と企業との交渉に回せるかどうかです。
人材ビジネスに育ててもらった一人として、その線引きを一緒に考えていきたいと思っています。
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