
「うちの営業マネージャー、忙しそうなのに数字が上がらない。」
中堅・中小企業の経営層や役員の方とお話していると、こうしたご相談をいただく場面が少なくありません。
部下の育成や戦略立案といった、「本来マネージャーに期待したい業務に手が回っていないように見える。」「案件を自分で捌くプレイングマネージャー化が進んでいるのか、それとも別の何かに時間を奪われているのか、判断がつかない。」
そして多くの場合、この違和感は「うちの会社のマネージャー個人の問題なのか、それとも業界共通の課題なのか」を切り分けられないまま、漠然とした不安として残り続けます。
本記事では、その違和感に対して独自調査である『営業AI白書2026』をもとに、営業マネージャーが何に時間を費やしているかを、役職をまたいだ時間構造から見ていきます。

白書のデータに入る前に、業務をどう分類するか、数値をどう読むかを記載します。
『営業AI白書2026』は、営業職の業務を以下の3つに整理して扱っています。
コア業務:商談など、売上に直結する業務
ノンコア業務:事務など、売上に直結しない業務
マネジメント業務(管理職のみ):社内会議・社内報告・部門間調整
直感的には、コア業務=お客様と向き合い売上に直結する時間 / ノンコア業務=売上に直結しない事務の時間 / マネジメント業務=管理職特有の社内業務、という対比で捉えていただいて差し支えありません。
提案書作成のように顧客ごとのカスタマイズが必要な業務はコア寄り、テンプレートからの見積書作成のように定型的な業務はノンコア寄り、と業務の定型性と判断の要否で分けています。
以下、営業活動で発生する業務を業務プロセスをベースに整理したものです。

次に、本記事で扱う数値は、白書の中でもN=616の回答者一人ひとりについて「最も時間を費やしている業務」を特定し、その最大時間シェアの業務によって回答者を以下の型に分類した数値を利用しています。
マネジメント中心
社内事務・調整中心
顧客対応中心
たとえば「社内会議・社内報告・部門間調整が最も時間を費やす業務だった人」は「マネジメント中心型」に分類される、という形です。
ここから本題です。
白書は、営業職かつ管理職にあたる意思決定層(役員・部長・課長(白書では「課長・マネージャー」、以降本記事では「課長」と表記))について、各人の最大時間シェアの業務で型を分けた分布を公開しています。
3型分類の集計対象はN=256です。結果は次の通りです。
社内事務・調整中心型: 52.3%(N=134)
顧客対応中心型: 44.5%(N=114)
マネジメント中心型: 3.1%(N=8)

集計対象:年商100億円未満の中堅・中小企業の営業職に従事する会社役員、会社員(N = 616)分類条件:コア業務、ノンコア業務、マネジメント業務の内、どの業務が最大時間シェアとなっているかで型を分類営業職かつ管理職(課長以上)を業界横断で集めて、一人ひとりの「最も時間を費やしている業務」で分類すると、本来マネージャーに期待される業務、つまり社内会議・社内報告・部門間調整を含むマネジメント業務を本業務にできているのは、100人に3人ほどでした。
なお、「マネジメント中心型」に該当した管理職は本調査の中でもサンプル数が少なく、3%という数字自体はあくまで参考値としてお取り扱いください。
それでも、母集団全体に占める割合がごく一部にとどまるという傾向は、明確に示されています。
残りの97人は、最も多くの時間を社内事務・調整(52.3%)か顧客対応(44.5%)に割いており、マネジメントは本業務になっていません。
ただ、顧客対応中心型自体は、必ずしも問題ではありません。
特に中堅・中小企業の管理職は、プレイングマネージャーとして自ら売上を作ることが期待される立場にあり、顧客対応に時間を割くこと自体は事業構造上も合理的な選択です。
特に注目すべき層は、過半数(52.3%)を占める「社内事務・調整中心型」です。
この層の管理職は、最も時間を費やす業務がマネジメント業務(白書定義では社内会議・社内報告・部門間調整)でも、顧客対応(売上に直結する業務)でもなく、社内向けの事務・調整です。
営業職としての顧客対応でもなく、管理職としてのマネジメントでもない第三の業務が、過半数の管理職の時間の主になっています。
「マネージャーがマネジメントできていない」という違和感は、感覚として正しいということです。
しかも、それは特定企業の事情ではなく、業界横断のデータに表れている構造として確認できます。
前節で示した3型のうち最も多い「社内事務・調整中心型」が、業務時間の中でノンコア業務にどれくらいの時間を割いているかも白書で示しています。
社内事務・調整中心型の管理職は、業務時間の60%以上をノンコア業務に費やしているという業務時間構造です。

集計対象:顧客対応中心型(N=114)、社内調整・事務中心型(N=134)、マネジメント中心型(N=8)分類条件:コア業務、ノンコア業務、マネジメント業務の内、どの業務が最大時間シェアとなっているかで型を分類型別時間構成比算出方法:各対象者の業務時間の加重平均で算出月間労働時間の中央値170時間で計算すると、170時間×60%=月間102時間以上が、売上に直結しない事務・調整に消えている計算になります。
残りの68時間で、顧客対応もマネジメント業務もこなす必要がある。
この時間の絶対量を踏まえると、「マネジメント業務に手が回らない」という観察は、本人の意思や能力ではなく、時間の物理的な量に起因しているという見方が成立します。
ここまでで「営業マネージャーが社内事務・調整で忙しい」という状態が、個人ではなく時間構造の問題だということを示しました。
最後に、その時間構造がどう積み上がっているかを役職別に分解します。
意思決定層の各役職のノンコア比率は次の通りです。
経営者・役員:ノンコア46.8%。書類の作成・承認業務が中心

部長:ノンコア42.0%。提案・見積などの顧客向け書類仕事と、社内会議・報告が並ぶ

課長:ノンコア44.8%。プレイヤーとしての顧客向け事務と、管理職としての社内会議・報告が二重に乗る構造

この一覧から読み取りたいデータは、課長のノンコア44.8%の中身です。
白書のデータが示しているのは、このノンコアが「管理職になったから生まれた管理職事務」だけで構成されているのではなく、プレイヤー時代から続く顧客向けの書類仕事(提案書・見積・受発注など)が消えないまま、その上に社内会議・報告・部門間調整が乗っている二重構造だということです。
部長の42%、役員の約50%についても同じ構造の延長線上にあります。
役職が上がるほど顧客向け書類仕事の比重は下がりますが、代わりに承認業務や部門間調整、社内向けの書類作成が増えるため、ノンコアの比率自体は下がっていきません。
前節で「現場の書類仕事が消えないまま」と書きました。
これを裏づける材料として、現場役職のノンコアの中身にも軽く触れます。
一般社員:ノンコア42.6%。商談前後の書類・事務(見積・受発注・CRM入力など)が中心

係長・リーダー:ノンコア48.0%。提案書作りが中心

注目したいのは、ノンコア比率が一般社員43%、係長48%という現場層の水準と、課長45%・部長42%という管理職層の水準に、ほとんど差がないという点です。
一般的なイメージでは「役職が上がれば事務は減って、判断や戦略の仕事に移っていく」となりそうですが、データ上ではそうなっていません。
つまりノンコアの量はあまり変わらないまま、業務の内訳がプレイヤー側の事務から管理職側の社内業務へとシフトしていくのが、役職別の時間構造です。
ここまでの数値は、すべて『営業AI白書2026』のN=616という業界横断データに基づいています。
集計対象は、年商100億円未満の中堅・中小企業の営業職に従事する会社役員・会社員。
本記事の中心となる3型分類(52.3%/44.5%/3.1%)は、課長以上の意思決定層のうち集計対象N=256の分布です。
帝国データバンク『「100億企業」の実態調査(2025年)』によれば、日本国内企業約149万社のうち年間売上100億円以上は15,159社で約1%にとどまります。
残りの99%、つまり国内のほぼすべての企業が年商100億円未満の中堅・中小企業に該当します。
本記事のデータは、この99%の側の営業組織を業界横断で集計したものです。
したがって、「うちの営業マネージャーが、マネジメントできていない」という違和感は、自社固有の話として個別のマネージャー個人を問題視するより、まず99%側の中堅・中小企業に共通する時間構造の話として捉え直すほうが事実関係に近い、ということになります。
最後に、本記事で確かめた内容を整理します。
「営業マネージャーが本来のマネジメント業務に時間を割けていない」という違和感は、N=616の業界横断データで構造として裏付けられます。
営業職かつ管理職(課長以上)の意思決定層を「最も時間を費やす業務」で分類すると、本来期待されるマネジメント中心型はわずか3.1%、過半数の52.3%は社内事務・調整中心型でした。
社内事務・調整中心型はノンコアに業務時間の60%以上を費やしており、月170時間の中央値で計算すると100時間以上が事務・調整に消える計算です。
この時間構造の背景には、現場の書類仕事が管理職になっても消えないまま、その上に社内会議・部門調整が積み上がる役職別の構造があります。
つまり、「うちの営業マネージャーがマネジメントできていない」という違和感は、マネージャー個人の心構えや能力の問題ではなく、99%の中堅・中小企業に共通する時間構造の問題として捉え直したほうが、事実関係に近い説明になるということです。

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