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自社でのAI活用を本腰で検討しはじめると、必ずと言っていいほど現れる言葉があります。「構造化データ」と「非構造化データ」です。
記事や資料をひらけば、定義そのものはすぐに見つかります。
「構造化データは表形式で整理されたデータ」「非構造化データは文書・画像・音声など」という内容に、一度は目を通されたことがあるのではないでしょうか。
しかし、構造化データと非構造化データの違いは大まかに理解していても、AI活用においてどんな関係があるのかを紐づけて考えている方は多くないのではないでしょうか。
本記事では、構造化データ・非構造化データの定義と、これまでの両者の扱い、AIの進化によってどのような変化がもたらされ、今後データはどうなっていくのかを解説します。
まず、両者の定義と具体例を、身近な例に置き換えながら整理していきます。
構造化データとは、あらかじめ項目(列の名前)が決まっていて、それぞれの項目に値が入っている、表形式のデータのことを指します。
行と列がある、Excelにきれいに収まる形と考えていただくと、いちばん近いかと思います。
具体的には、売上金額、在庫数、顧客リスト、取引履歴、勤怠、センサーが出す数値のようなデータが該当します。
一言でいえば、「Excelの行と列にきれいに収まる、項目が決まったデータ」が構造化データにあたる、と押さえておいていただければ十分です。

一方の非構造化データは、決まった型を持たないデータのことを指します。
表計算シートの列にきれいには収まらない、といったほうが分かりやすいかもしれません。
具体的には、社内で日々やり取りしている会議の議事録、営業メモ、提案書、契約書、メール、問い合わせのログ、コールセンターの録音、現場で撮影された画像や動画、CAD図面などが該当します。

Box Japanの解説では、企業が持つ情報のおよそ90%は非構造化データだと紹介されています(出典: 企業が持つ情報の90%は非構造化データ|Box Japan)。
Gartnerも、2028年までにエンタープライズ・アプリケーション・リーダーの半数がメタデータを通じて非構造化データを管理するようになり、非構造化データの管理のためのIT支出はデータ管理関連支出全体の4割を占めるようになる、との予測を示しています(出典: 2028年までのデータ/アナリティクスに関する10の戦略的展望|ガートナー)。
今後、企業のデータ管理の重心が、じわじわと非構造化データ側にも移っていくと想定されている領域だと理解しています。
ここで少し、データ管理の歴史を記載します。
「非構造化データが9割」という比率がありながら、なぜ多くの企業のデータ基盤は構造化データ中心で発展してきたのか、という背景の話です。
長らく企業のデータ分析の主戦場は、売上、在庫、顧客数、契約金額のような、「数字で答える問い」でした。
決算をどう説明するか、月次で何が伸びているか、地域別に見るとどうか。
こうした問いに素早く答えるには、表形式に整えられた数字が使いやすく、データベースやBIツールも、その用途を前提に発展してきた経緯があります(出典: Evolution to the Data Lakehouse|Databricks、いまさら聞けない!「レイクハウス」とDWH、データレイクの違いとは|NTT DATA)。
一方で、議事録・提案書・契約書・メール・画像・音声といった非構造化データは、業務のなかでずっと生まれ続けていました。
テキストマイニングや自然言語処理、画像認識といったデータサイエンスの手法によって、こうした非構造化データを分析する取り組み自体は、以前から存在していたものの、それぞれの手法には専門知識や個別のモデル開発、まとまった投資が必要で、限られた領域・企業でしか本格的に活用しづらかったのが実情でした。
多くの企業にとっては、非構造化データは共有ドライブやファイルサーバー、担当者の手元のフォルダに「置いておく」対象で、日常の意思決定の材料としては使いこなしづらいままだった、という背景があります。
この構図が大きく動き出したのが、生成AIの登場です。
文書・PDF・画像・音声もAIで扱えるようになったことで、「非構造化データも、分析や問い合わせの対象に入れられる」時代に入ってきました。
企業のデータ基盤に対する期待値も、ここ数年でじわじわと非構造化データ側に広がってきていると感じます。
こうして見ていただくと、「構造化データ中心のデータ基盤で足りていたのは、あくまでこれまでの用途の話」であって、AI活用まで見据えると、非構造化データも扱える形へと基盤の考え方を広げる必要が出てきているということが、見えてくるかと思います。
ここからが、この記事の本題です。
「なぜ構造化データはAI活用が比較的簡単で、非構造化データはAI活用まで遠いと言われるのか」。
その差は、突き詰めると、「そのデータが何を意味するか」がAIから見て決まっているかどうかという一点に行き着きます。
構造化データが扱いやすいのは、表形式で項目(列名)と値の対応が最初から決まっているからです。
「売上金額」という列に入っているのが金額の数字であることは、AIから見ても迷いようがありません。
そのため、集計・比較・グラフ化のような使い方は、生成AIの登場後、大きく広がりました。
以前は専門的な知識がないとできなかったデータ分析が、AIに日本語で話しかけるだけで、「先月、地域別で伸びた商品は」「昨年同月と比較したら」といった問いに答えを返してくれるようになりました。
データを扱える人の裾野が急に広がったのは、この構造化データの領域だと言えます。
ただし、構造化データにも、押さえておいていただきたい注意点が1つあります。
「同じ言葉の数字でも、意味の定義が揃っていないと、AIはもっともらしい誤答を返す」という問題です。
たとえば同じ「売上」という言葉でも、税抜か税込か、返品前か返品後か、確定済みか未確定かで、数字は変わります。
営業部門と経理部門とで少しずつ定義がずれていることも、業務のなかでは珍しくありません。
この定義のずれをそのままAIに渡すと、AIは自分で正解を選ぶ手立てを持たないため、それらしい答えを返しつつ、実は違う定義の数字を見ている、という状況が起こり得ます。
この論点は、業界で「セマンティックレイヤー」という言葉で語られる領域と重なります。
指標の定義や集計条件のズレが生成AIの誤答を招く、という指摘は、AI時代のデータ基盤の課題として多くの解説で扱われるようになりました
関連記事:セマンティックレイヤーとは
「構造化データは扱いやすい。ただし、AIに正しく答えさせるには、数字の意味を組織内で1つに揃えておく手前の作業が要る」。ということを理解していただければと思います。
一方の非構造化データは、AIから見ると、そもそも「そのデータが何なのか」が最初は分からないところから始まります。
ここが、構造化データとの決定的な差です。
たとえばWordファイルの中の文章、PDFの中の契約書、画像として保存された図面。
これらは、AIから見ると最初は「文字の並び」や「画素の集まり」でしかありません。
そのため、非構造化データをAIに使わせるには、いくつかの整備作業が必要になります。
代表的なものを整理すると、次のような処理です。
テキストを取り出す:PDF、画像、音声などから、AIが読める形のテキストを抽出する
メタデータ(属性情報)を紐づける:文書の種類、作成日、部署、案件名など、「これが何のデータか」を示す情報を付ける
意味で検索できる形に変換する:文書の意味の近さで検索できるよう、AIが扱う内部表現に変換し、検索用のインデックスを作る
これらの整備を通じて、はじめてAIは「どこに、何が、いつのものが書いてあるか」を把握し、社内の問い合わせに答えられるようになります。
こうした処理の一部は、AIによる自動化が大きく進んできました。
しかし、業界特有の専門知識が求められる分類や、感情・行間・言外のニュアンスを読み取る必要があるケースでは、業務を分かっている担当者の目や、詳しい人による確認が依然として欠かせないとされています。
こう書くと、非構造化データはAIには使えないのか、と受け取られてしまいそうですが、そうではありません。
生成AIとRAG(AIに社内の資料を引かせて回答に反映する仕組み)の登場によって、文書・PDF・画像・音声も分析対象に組み込めるようになったのは、たしかに大きな変化です(出典: RAGの精度向上|VertexAIで生成したQ&A表の活用術|ソフトバンク、生成AI活用のための非構造化データの構造化技術|BIPROGY)。
ただし、その恩恵を受けるには、「文書をどこにどう置いておくか」「どう定義し、どう検索できる状態にしておくか」といった、基盤の整備が前提になります。
こうして並べてみると、構造化データと非構造化データの扱いやすさの差は、単に「片方が簡単で、片方が難しい」という話ではなく、それぞれ違う種類の手前作業が要る、という構図であることがわかります。
構造化データ:形は扱いやすい。ただし、数字の意味の定義を組織で揃える手前作業が要る。
非構造化データ:形は扱いにくい。ただし、AIの進化で扱える幅が広がった。扱うには前提としてタグ付けや置き場所の基盤整備が要る。
構造化データと非構造化データは、企業のなかでも、実は別々のデータ基盤で管理されるのが一般的です。
ここで登場するのが、DWH(データウェアハウス)とデータレイクという、2つの箱です。
DWHは、社内の複数のシステム(販売、在庫、会計、顧客管理など)から数字を集めて、集計や分析がしやすい形に整えたデータベースのことを指します。
ざっくり言えば、「分析専用に整えた、数字の倉庫」というイメージです。
DWHが扱うのは、構造化データです。
異なるシステムから集めたデータ・データ履歴を、行と列がそろった表形式に集計・結合・蓄積し、データ分析に最適化して保管しています。
「先月の地域別の売上を、前年同月と比較して」といった問いに、素早くグラフで応える。そうした分析用途に向いています(出典: いまさら聞けない!「レイクハウス」とDWH、データレイクの違いとは|NTT DATA、DWH(データウェアハウス)とデータレイクの違いとは?|IT Trend)。
いま社内で「BIツール」「経営ダッシュボード」を運用されている企業であれば、その参照元にDWHが置かれていることも多いかと思います。
DWHは、「何を見るためのデータか」があらかじめ決まっている箱だと言えます。
一方のデータレイクは、構造化・非構造化を問わず、加工前のデータをそのままの形で大量に貯めておける、低コストのストレージ基盤のことを指します。
「型を選ばずに、まとめて置いておける箱」というイメージです。
データレイクが扱うのは、Excelにきれいには収まらない情報も含めた、あらゆる形式です。
JSONやXMLのような準構造化データ、画像・音声・動画・ログといった非構造化データも、そのままの形で保管できます。
「まずは全部貯めておいて、あとから必要になった目的に合わせて取り出す」という発想の箱です(出典: NTT DATA、IT Trend、データレイクとは?初心者向けにデータウェアハウスとの違いを徹底解説|富士ソフト)。
DWHが「用途を決めて整えた倉庫」なら、データレイクは「用途がまだ決まっていないものも含めて、まず貯めておく場所」と言えます。
観点 | DWH(データウェアハウス) | データレイク |
|---|---|---|
主に扱うデータ | 構造化データ(表形式の数字) | 構造化・準構造化・非構造化のいずれも |
貯め方 | 生データの保管・目的に合わせて加工 | 生のまま |
主な用途 | BI・経営ダッシュボード・数字の分析 | AI・機械学習・文書や画像も含めた活用 |
得意なこと | 素早く数字を返す、検索性 | 型を選ばず貯められる、柔軟性 |
イメージ | 分析用に整えた倉庫 | 型を問わずまとめておける貯水池 |
ここで大事なのは、「DWHとデータレイクはどちらか一方を選ぶものではなく、目的に応じて使い分ける、あるいは併用するもの」という点です。
IT Trendの記事でも「どちらかがもう一方を淘汰しあう関係ではない」と整理されており、両者は相補的な関係にあるとされています(出典: IT Trend)。
つまり、企業がAI活用を本気で進めようとするとき、多くの場合で問われるのは、「DWHかデータレイクか」ではなく、「両方をどう組み合わせるか」のほうになります。
ここまでで、構造化データと非構造化データは違う特性を持ち、違う器で管理されるのが基本という景色が見えてきたかと思います。
ではなぜ、この2つを統合することが、AI活用にとって重要になってくるのか。
それは、AIの回答品質は、AIが参照できるデータの範囲と質で決まるからです。
数字だけを見ているAIには、その数字の「理由」までは答えられません。
文書だけを見ているAIには、業績や実績と紐づけた「意味づけ」までは戻せません。
両方を同じ基盤で参照できて、はじめてAIの回答は自社の現実に沿ったものになります。
具体的な例として、たとえば「あの案件、なぜ失注したのか」という問いをAIに投げるとします。
構造化データだけを見ているAIは、「先月の商談件数は◯◯件、受注率は◯%です」までしか返せません。
ここに、議事録・商談メモ・メール(非構造化データ)を組み合わせて参照できるようになると、はじめて「◯月の商談で顧客側の予算組み替えが起きて、意思決定者が変わり、比較検討先に◯社が加わったため」といった経緯まで踏み込んだ回答が返せる状態になります。
この差が、企業内AIの実用性を大きく左右します。
こうした「構造化と非構造化を統合してAI活用の精度を上げる」流れは、事例としてもさまざまな企業で報告されるようになりました。
たとえば加賀FEI株式会社の生成AI導入事例では、構造化・非構造化データを有効活用して短期間でナレッジ検索基盤を構築した取り組みが紹介されています(出典: 構造化・非構造化データを有効活用!生成AIによるナレッジ検索基盤を短期間で構築|加賀FEI株式会社様の生成AI導入事例)。
RAGの精度向上においても、構造化と非構造化のそれぞれで最適な解析方法を組み合わせることが有効だと整理されています(出典: ソフトバンク|VertexAI、BIPROGY)。
つまり、AI活用において重要視されるポイントは、「構造化データと非構造化データをどうつなぐか」になりつつある、ということです。
「構造化データと非構造化データを統合する」といっても、実装方法は1つではありません。
大きく分けて、2通りのアプローチがあり、どちらが最適かは、企業ごとに違います。
1つ目のアプローチは、構造化データはDWH、非構造化データはデータレイクで、別々に管理する構成です。
両者はETLと呼ばれるデータの受け渡し処理でつなぎ、必要な場面でデータを行き来させます。
DWHとデータレイクをそれぞれ独立して持ち、両者を組み合わせて使うイメージです(出典: NTT DATA、顧客データ統合の仕組み|DX BLOG(EVER RISE))。
向いているケース:
すでにDWHを整備しており、構造化データの分析が主戦場になっている
非構造化データの活用は、まず特定の部門から徐々に広げていきたい
現在の資産を活かしながら段階的にAI活用を広げたい
注意点:
DWHとデータレイクでデータが2重持ちになりやすく、両方の運用管理コストが発生する
両システム間のデータ移動にETL処理が必要となり、開発コストが増えやすい
この点は、NTT DATAの解説でも「データレイクとDWHでデータが2重持ちになってしまう」「両システム間のデータ移動にETLが必要となり、開発コストが増加する」といった従来型の課題として整理されています(出典: NTT DATA)。
もう1つのアプローチは、構造化データも非構造化データも、1つの基盤で扱えるように設計する構成です。
「データレイクハウス」と呼ばれ、データレイクの柔軟性と、DWHの信頼性・分析性能を、単一の基盤で両立させることを狙ったアーキテクチャです(出典: What is a Data Lakehouse?|Databricks、NTT DATA)。
関連記事:データレイクハウスとは
向いているケース:
これから本格的にデータ基盤を作る/作り直す
構造化データと非構造化データを、最初から同じ基盤でAI活用したい
別々のシステムを2つ持って運用コストを重ねたくない
注意点:
比較的新しいアーキテクチャで、社内に運用できる人材や外部パートナーの確保が要る
既存のDWH資産をどう活かすか(残すか、置き換えるか)の設計判断が必要になる
IT Leadersの解説では、データレイクハウスをめぐる論点として「機能や処理速度、コストなどを勘案すると、データのすべてを一方に寄せるのは現実的ではない」という制約も指摘されています(出典: AI活用で目指すべきは"脱DWH"|IT Leaders)。
「アプローチ1と2、どちらが正解ですか」と問われることがあります。
ただ、これは残念ながら1つの正解が決まるタイプの問いではありません。
どちらを選ぶか、あるいはどう組み合わせていくかは、次のような軸で自社に合わせて決めていくものになります。
既存資産の状況:すでにDWHや周辺のBI基盤が動いているか。それを活かすほうが早いか、置き換えるべきか。
AI活用で扱いたいデータの偏り:数字寄り(構造化)が中心なのか、文書・画像・音声(非構造化)まで踏み込みたいのか。
社内の運用体制:新しいアーキテクチャを回せる人がいるか。外部パートナーとどう組むか。
スモールスタートか、最初から統合基盤を作るか:部門単位で小さく試したいのか、全社統合を最初から見据えるのか。
一度にデータレイクハウスへ移行することが最適解とは限らないという前提のうえで、自社の状況にいちばん近いかたちを選び取っていくのが、現実的な進め方ではないかと考えています。
本記事の内容をまとめます。
構造化データは、表計算シートに収まる、項目が決まったデータ。
非構造化データは、書類・メール・画像・音声のような、型を持たないデータ。企業内では、非構造化データが約9割を占めています。
AI活用のしやすさに差が出るのは、「そのデータが何を意味するか」がAIから見て決まっているかどうかの違いから生まれます。
構造化データは形が扱いやすい一方で、数字の意味を組織で揃える手前作業が要ります。
非構造化データはAIの進化で扱える幅が広がった一方で、タグ付けや置き場所の基盤整備が前提になります。
データを管理する箱としては、DWH(分析用に整えた数字の倉庫)とデータレイク(型を問わず貯めておける箱)があり、両者は使い分け・併用が基本です。
両者を統合すると、AIの回答品質は格段に上がります。統合には「DWHとデータレイクを分けて持ち、つなぐ連携型」と、「1つの基盤に統合するデータレイクハウス型」という、大きく2つのアプローチがあり、どちらが最適かは、既存資産・扱いたいデータの偏り・運用体制・スモールスタートしたいか、といった軸で企業ごとに変わります。
ここまでの整理を頭に入れておいていただければ、これから先、AI導入に関する記事で「構造化データ」「非構造化データ」という言葉を見かけた際に、それぞれの特性と扱いの差が自分の頭でイメージできるようになるかと思います。
AI活用を進める際に、構造化データと非構造化データという存在を意識してみると、統合したデータ活用の重要性がより身近なものになるのではないでしょうか。
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