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AI活用が本格化するにつれて、「AIの精度を左右するのはモデルの性能よりも、モデルに渡すデータの品質ではないか」という見方が業界で広がりつつあります。
そうした文脈で欠かせない存在になっているのが、「メダリオンアーキテクチャ」というデータ基盤の設計パターンです。
この記事では、データのAI活用に向けて必要になってくるこの設計思想について、概念と3層構造、データレイクハウスとの関係、そしてAI活用の観点でなぜこの設計が構造的に求められるのかを、根拠とともに解説します。
メダリオンアーキテクチャは、データ基盤に取り込んだデータをBronze・Silver・Goldの3層に分け、層が上がるたびに品質を上げていく設計パターンのひとつです。
命名したのは、データ分析とAIのための基盤を提供するアメリカ合衆国の企業Databricks。
公式ドキュメントでは、「データレイクハウス内のデータを論理的に整理するための設計パターンであり、データが各層を通過するにつれて構造と品質を段階的に改善していくことを目的とする」と説明さえれています。
ですが、この設計思想自体は新しいものではありません。
メダリオンアーキテクチャが提唱される前にも、段階的なデータ処理の考え方は存在していました。
メダリオンアーキテクチャは、この「段階的にデータの品質を上げる」思想を、データレイクハウスとAI活用の文脈に合わせて再定義したものだと言えます。
関連記事:データレイクハウスとは
データレイクハウスとメダリオンアーキテクチャの関係性を表すと、「箱」と「棚」のようなイメージです。
データを集めて保管しているデータレイクハウスの中に、3階層の棚をつくり、階層が上がるごとにデータの品質・整備が整えられていくという構造です。

メダリオンアーキテクチャの各層にはそれぞれ、Bronze→Silver→Goldという名称がつけられています。
取り込んだままの生データ(Bronze)を検証・クレンジングして整え(Silver)、最終的に用途に合わせた形に加工する(Gold)といった役割です。

同じデータを3つの状態で並行して持つことで、生データに遡った確認・整備された状態のデータ保管・分析用途に合わせた切り口での整理が同時に満たせます。
メダリオンアーキテクチャの3層設計は、行や列の表形式で管理される構造化データだけでなく、画像・音声・契約書といった決まった形のない非構造化データにも適用できます。
階層 | どのようなデータを持つか |
|---|---|
Gold | 分析の切り口に必要な判断材料として、決定事項・用語集・メンバー・ルールなどを設定。 |
Silver | どのファイルが何のデータを含むファイルなのか、いつ作成され、どのプロジェクトのデータなのかを定義。 |
Bronze | 音声ファイルやテキストデータ(議事録など)、提案資料などをそのまま溜めておく。 |
そうすることで非構造化データも、構造化データと同じようにメダリオンアーキテクチャを用いたデータ管理が可能になります。
構造化データと非構造化データを同じ設計で管理することで、管理コストの削減や、後述するAIでの分析の質が向上します。
関連記事: 構造化データと非構造化データの違い|AI活用における差と統合に向けた動き
Bronze層は、システムからのデータを「そのままの形で」取り込みます。
目的は、分析のためではなくデータの出典を遡るための生データの保管です。
クラウドストレージ、SalesforceなどのSFA/CRM、さまざまなシステムからのデータを、変換や検証を加えずに格納します。
元データにいつでも戻れる状態を維持することで、下流の処理でエラーが発生した場合に再処理が可能になります。
【実装時のポイント】
実装時のポイントは、各システムから取り込む頻度です。
頻度が多いとよりリアルタイムな分析や活用ができるようになりますが、一方で保管するデータ量が増えるためコストが増える可能性があります。
取り込む頻度は、活用したい内容に合わせて設定しましょう。Silver層は、Bronze層から読み取ったデータに対して検証・クレンジング・標準化を施す層です。
【Silver層で行う操作例】
決めた形のとおりか確認する(スキーマの適用)
金額の列に「未定」という文字が入っていないか、必須の項目が空欄になっていないかを見て、通すか弾くかを決めます。
同じ記録を1件にまとめる(重複除去)
取り込みを再実行して同じ取引が2件入った、といった状態を1件にまとめます。
型を揃えて表をつなぐ(型キャスト・結合)
文字列として入っている「2026/08/05」を、日付として計算できる形に直します。
顧客表と取引表を共通のIDでつなぐのもこの層です。
遅れて届いた記録を入れる(遅延データの処理)
月次の集計を締めた後に届いた記録を、どの時点のものとして扱うかを決めます。
「株式会社○○」と「○○(株)」を同じ取引先として揃える名寄せや、表記ゆれの統一などもSilver層の設計に含まれます。
【実装時のポイント】
メダリオンアーキテクチャを設計する際の作業の中心がSilver層になります。
構造化データに対するデータ整備から、非構造化データに対するデータの定義など、最も作業と判断が必要な層になります。
重要度の高いデータから少しづつ整備していくことをおすすめします。Gold層は、分析・レポーティング・AI活用など、特定の用途や分析したい内容に最適化されたデータを提供する層です。
【例】
見たいこと | 必要な項目 | Silver層にあるもの | Gold層の切り口 |
|---|---|---|---|
今月、どの顧客の売上が落ちているか | 顧客ごと・月ごとの売上と、前月の同じ数字 | 取引明細(1行が1件の取引) | 顧客 × 月(1行が1顧客の1か月) |
どの商品が、どの規模の会社に売れているか | 商品ごとの売上と、顧客の従業員規模 | 取引明細と顧客マスタ | 商品 × 規模帯(1行が1商品の1規模帯) |
A社と、これまで何を決めてきたか | 決定した内容と日付、根拠になった資料 | 議事録ごとの記述ファイル | 顧客 × 時系列(1行が1つの決定) |
この層で行う判断は、集計の細かさです。
集約しすぎると別の方面からの分析に対応できなくなり、Silver層と同じ細かさのままでは層を分ける意味が薄れます。
誰が何を問うためのデータかを決めてから、集計の細かさを設計しましょう。
【実装時のポイント】
Gold層を設計する際は、分析する用途や分析したい内容から切り口を考えることをおすすめします。
いきなりSilver層にある項目からデータを束ねるのではなく、「こういう分析がしたい」「AIにこういったことを聞きたい」という内容から、そのために必要なデータを束ねるという流れです。Silver層とGold層は、正式に境目としての線は引かれていません。
基本的に、設計する側の判断に委ねられています。
目安として判断の軸になるのは大きく3つです。
Silver層は、生データと同じ単位のままデータを整えます。
取引明細は取引明細のまま、議事録は議事録のまま、表記と型が揃った状態になります。
Gold層は、この単位を組み替えます。
取引明細を顧客ごとの月次に束ね直したもの、議事録から決定事項だけを抜き出して案件ごとに並べたものは、元データとは違う単位です。
単位が変わる加工はGold層に置く、という線引きがまずできます。

Gold層は問いに答えるための場所なので、置いた表や記録が数週間後には違っている状態になると使えません。
決定したこと、用語の定義、運用のルールのように、いつ読んでも矛盾しないものがGold層に入り、進行中の議論やその週限りの動きはSilver層までにとどまります。

AIに最初に読ませるのはGold層です。
Gold層で候補を絞ってから、必要なデータだけを読みに行ってもらいます。
当社の運用では、AIは質問を受けるとGold層にある、切り口項目一覧でファイルの候補を絞り、次に該当ファイル、最後に生データを読みます。
「A社の直近の提案資料」という質問であれば、顧客名の一覧と文書種別の一覧と時期の一覧を重ね合わせて数件まで絞り、そのうえでデータを読みに行きます。
AIに最初に読ませる内容かどうかも、Silver層とgold層を分ける判断軸になります。
メダリオンアーキテクチャの3層構造は、もともとBI(ビジネスインテリジェンス)や分析のために設計されたものです。
しかし、RAGやAIエージェント、生成AIの活用が広がる中で、この構造がAIのためのデータ基盤として改めて評価されています。
AIの回答の精度が低い原因の多くは、AIが参照するデータの品質にあります。
重複レコード、表記ゆれ、欠損値が混在した状態のデータをそのままAIで検索すると、ノイズの多い検索結果が返り、誤った回答につながります。
Bronze→Silver→Goldの過程でこうしたノイズが段階的に除去されるため、Silver層やGold層のデータをAIの参照元に使えば、検索精度が改善されます。
Gold層を分析ダッシュボード用・検索用など、用途ごとに設計できるのは大きな利点です。
検索向けには検索に適したラベンリングや整備をしたデータ、分析AI向けには集計済みのデータなど、AI活用に最適な形式でデータを提供することができます。
用途や分析したい内容ごとに設計することで、AIが必要のないデータも全て確認するといったことがなくなり、データ参照が最適化されます。
AIが出した回答の根拠を問われたとき、その回答がどのデータに基づいているかを遡れるかどうかは、業務利用において重要な要件です。
メダリオンアーキテクチャでは、各層での変換が残るため、Gold層のデータからBronze層の生データまで追跡できます。
これは、AIの出力に対する説明責任が求められる場面、たとえば監査対応や経営判断の根拠説明で必要になります。
ここまでメダリオンアーキテクチャの有用性を示してきましたが、万能ではありません。
注意すべき点も押さえた上で、採用判断を考える必要があります。
ソフトウェア開発メディアのInfoQに掲載されたAdam Bellemareの論考では、メダリオンアーキテクチャに対する複数の問題点が指摘されています(出典: The End of the Bronze Age: Rethinking the Medallion Architecture — InfoQ)。
第一に、データコピーのコストです。
Bronze層へのデータ取り込み、Silver層への変換・書き込み、Gold層への再加工と、各段階でデータのコピーと処理が発生します。
Bellemareは「データの読み込み、ネットワーク転送、ディスクへのコピーの書き戻し、コンピューティングリソースの各ステップでコストが発生し、これらのコストは急速に積み上がる」と指摘しています。
第二に、Bronze層の脆弱性です。
Bronze層はソースシステムからのデータをそのまま受け入れるため、上流のスキーマ変更の影響を直接受けます。
Bellemareはこれを「上流システムから取り出されたデータの投棄場」と表現し、何らかの形で壊れていることが多いと述べています。
第三に、バッチ処理前提の設計です。
メダリオンアーキテクチャは各層間のデータ移動を前提としており、リアルタイムのオペレーショナルワークロード(たとえば、AIエージェントがリアルタイムに最新データを参照するようなユースケース)には、そのままでは対応しにくい場合があります。
第四に、すべてのデータが3層を必要とするわけではないという指摘もあります。
Microsoft Fabricの代替設計に関する分析では、「2層で90%の価値を50%のコストで得られることもある」と報告されており(出典: Beyond the Medallion: Cost-Saving Alternatives — renierbotha)、データの種類や用途によっては、3層すべてを実装する必要がないケースも存在します。
これらの限界を踏まえた上で、自社のデータ基盤にメダリオンアーキテクチャを採用すべきかどうかを判断する際には、以下の観点が参考になります。
採用が適しているのは、複数のソースシステムからデータを統合してAIや分析に使う必要がある場合、データ品質の段階的な改善が求められる場合(RAGの精度向上やMLモデルの学習データ整備など)、監査やコンプライアンスの要件でデータリネージの追跡が必要な場合です。
一方で、活用したいデータソースが1〜2種類に限られ、品質が安定している場合や、リアルタイム性が最優先の要件である場合には、より軽量な設計を選ぶ判断もあります。
まずはBronzeとGoldの2層で始め、データ量や品質要件の増加に伴ってSilver層を追加していくという段階的なアプローチも現実的です。
最後に、メダリオンアーキテクチャの将来的な方向性として注目されているのが、Google Cloud Japanが提唱する「メダリオンアーキテクチャ2.0」です。
(出典: AIエージェントが真価を発揮するデータ基盤へ — メダリオンアーキテクチャ 2.0 — Google Cloud Japan)。
従来のBronze・Silver・Goldの3層に加えて、さらにプラチナレイヤーを設ける考え方です。
プラチナレイヤーは、
ビジネス指標の定義を一元管理する「セマンティックレイヤー」
データ間の関係性をグラフ構造で表現する「ナレッジグラフ」
AIのデータアクセスを追跡する「ガバナンス」
PDF・画像・音声などの非構造化データを扱う「マルチモーダル対応」
ストリーミングデータを即時活用する「リアルタイム対応」
で構成されています。
このプラチナレイヤーは、「ビジネス文脈をAIが理解できない」「非構造化データが活用されていない」「リアルタイムデータが不足している」という課題を解決するための拡張要素として位置づけられています。
AIエージェントがデータ基盤と連携して自律的にタスクを実行する時代を見据えた提案であり、「プラチナレイヤーの成熟度にしたがって、よりレベルの高いタスクを自律的に実行できるようになる」とされています。
現時点でプラチナレイヤーの実装を急ぐ必要はまだないかと思いますが、データ基盤の設計においてこうした拡張の方向性を視野に入れておくことは、将来のAI活用の幅を狭めないために有効です。
まずは、自社のデータがどのソースから、どのような品質で蓄積されているかを確認し、AIに渡したいデータの品質を考えてみるところから始めてみてはいかがでしょうか。
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