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気づいたら、もう画面をほとんど開いていなかった

2026/7/2

株式会社deflag CPO

中前 秀太

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  • # AI開発

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  • # AIエージェント

「さっきの商談、この内容でCRMに入れていいですか」

Slackで、エージェントからそんなメッセージが届いています。
中身にざっと目を通して、承認ボタンを押す。やることは、それだけです。

何かを指示したわけではありません。
打ち込んだわけでも、画面を開いて操作したわけでもない。
気づけば私は、マウスをほとんど触らなくなっていました。

長い間、私はプロダクトを作る側にいました。ゲームやSaaSの開発や運用です。
その世界で、画面の使いやすさは、とても大事なものでした。
ボタンの位置一つ、クリックの回数一つにこだわって、画面や体験を磨いてきました。

その私が、いつのまにか自分の仕事のほとんどを、音声とテキスト、それに「承認」だけで済ませていました。
カーソル移動もクリックも、ほとんど要らない。
長年こだわってきた「画面」を、自分が、だんだん開かなくなっていました。

私は「まず自分で触る」を信条にしています。
作る側が毎日使い倒していないプロダクトは、どこかで嘘になる。
だから自社のあらゆる業務で、どこまでAIに渡せるかを人柱になって試してきました。
その過程で、自分の手が画面から離れていくのを、当事者として体で感じてきました。

SaaSを「使いやすい画面」として磨いてきた時代が、静かに終わりつつあるのかもしれないと思うようになりました。

気づいたら、画面を開かなくなっていた三つの場面

抽象的な話に聞こえるかもしれないので、自分が実際に「画面を開かなくなった」場面を、三つ挙げてみます。
どれも、自社で毎日回している仕組みです。

商談は、もう指示もしていない

少し前まで、商談が終わるたびに、担当者がCRMの画面を開いていました。
会社名を選んで、商談ステータスを更新して、内容を打ち込む。
フォローのメールも、自分で文面を考えて送る。
地味ですが、けっこう時間のかかる作業です。

今は、こちらから指示することすらありません。
商談はそのまま録音されていて、終わるとしばらくして、AIのほうから連絡が来ます。「この内容でCRMに入れていいですか」と。
私がやるのは、その中身を確かめて、承認を押すことだけです。
フォローメールの下書きも、同じように用意されています。

「そもそも、あの入力作業は誰のためだったんだろう」と、ふと思いました。
きれいに整ったCRMの入力画面は、結局、人が手で埋めるために存在していました。その前提そのものが、足元から揺らいでいる感覚がありました。

「NDAを作っておいて」と頼むだけ

契約書も同じでした。
少し前まで、秘密保持契約書を一通つくるのに、雛形のファイルを開いて、相手の会社名や日付を差し替えて、PDFに書き出して、相手ごとのフォルダに格納する。
一つひとつは小さいけれど、地味な手作業の連続です。

今は、「この相手とNDAを作っておいて」と頼むだけ。文面の生成からPDF化、正しいフォルダへの格納まで、一気通貫で終わります。

ここでも私は、各ツールの画面を開いていません。
やりたいことを言葉で渡すと、結果だけが返ってくる。
「操作する」という工程が、まるごと抜け落ちていました。

日報は、もう書いていない

かつては一日の終わりに、その日の動きを思い出しながら入力欄に打ち込んでいました。正直、書くのを忘れる日もありました。

今は、書いていません!

私の一日の活動は、複数の端末から自動で集まって、毎晩決まった時間にAIが日報にまとめ、Slackに届けてくれます。
「入力する」という行為そのものが消えて、日報を書くための画面は、もうどこにもなくなりました。

主役が、人からAIに替わりつつある

三つを並べてみて、共通点に気づきました。
どれも「人が画面を操作してデータを出し入れする」という前提が外れていました。代わりに、AIがデータを出し入れしている。

これまでのSaaSは、人が主役でした。
担当者が画面をポチポチ操作して、データを入れて、また別の画面で見る。
言ってみれば「人が操作するための箱」です。
三つのアプリを行き来して数分かける、なんていうのも珍しくありませんでした。

これからのSaaSは、AIが主役になっていきます。
AIがデータを出し入れする「取り出しやすいデータの箱」へ。
さっきまで人が数分かけていた作業を、AIが数秒で終わらせる。同じ箱でも、向き合う相手が変わってきています。

そう考えると、作る側として、少しひやりとする問いが出てきます。
私たちはこれまで、誰のために画面を磨いてきたのか。その「誰か」が画面を開かなくなるのなら、一番時間をかけて磨くべき物はもう画面ではないのかもしれない。

ただ、「画面がなくなる」とは思っていません

「じゃあ、UIは全部いらなくなるんですね」と感じる方もいると思います。
でも、そうは思っていません。

自社で試してきて、はっきり線が引けたところがあります。
消えていくのは「操作するための画面」。残るのは「判断するための画面」です。

商談を録音するだけでCRMが埋まっても、その内容を最後に確かめて「この案件はこう進める」と決めるのは人間です。
日報が自動で届いても、それを見て「明日は何を優先するか」を選ぶのは自分です。
NDAが自動で生成されても、署名する前に目を通して責任を持つのは、やはり人間の仕事です。

ずっとterminal・チャットツールとAIエージェントだけで仕事している人がそれの究極系かもしれません。

私はいつも、AIに渡すのは「実行」、人間が握り続けるのは「判断」だと考えています。だとすれば、画面の役割も、そこで分かれていくはずです。
データを手で打ち込むための画面は、静かに減っていく。一方で、AIがやった結果を人が確かめて、決めて、承認するための画面は、むしろこれからより大事になります。

だから、画面が消えるのではありません。
画面の仕事が、「作業する場所」から「判断する場所」へ移っていくという変化なんだと捉えています。

では、これから何を磨けばいいのか

作る側の話に、もう少し踏み込みます。

AIを組み込んでみて意外だったのは、本当に難しいのはAIの機能そのものではなかったことです。
機能でできることは、正直、全体の2〜3割くらい。
残りの大半は、「何を、どう体験させるか」をどう設計するか、でした。

だとすれば、これから時間をかけて磨く対象も、自然と変わってきます。
これまでは、画面の使いやすさ。ボタンの位置、導線、見た目の心地よさ。
これからは、データの取り出しやすさです。
AIがそのデータをきれいに引き出せるか。意味のある単位で整理されているか。きちんと正規化されているか。

正直に言うと、頭のどこかでこんな声がします。
「これまで一番手をかけて磨いてきた画面が、もしかしたら一番先に要らなくなるのかもしれないな」と。
長く作り手をやってきた人間としては、少し寂しい話にも聞こえます。

でも私は、これを前向きに受け止めています。
画面をきれいにすること自体は、もともと目的ではありませんでした。本当の目的は、人がやりたいことを、できるだけ少ない手間で実現すること。
その手段が、クリックから言葉や音声に変わっただけです。むしろ、昔からやりたかったことに近づいている気さえします。

作る人間の問いも、「どんな画面を作るか」から、「AIが気持ちよく働ける箱を、どう設計するか」へ。私自身、最近はそこを強く意識するようになりました。

自分の手が、画面から離れていく

AIから届いた「この内容で入れていいですか」に、中身を確かめて承認を押す。
画面を開くことも、何かを打ち込むこともないまま、次の作業に進む。それだけ見れば、なんでもない日常の一コマです。
でも、その小さな一瞬に、プロダクトの作り方そのものが変わる気配が詰まっている気がしています。

私は、自分の手が画面から離れていくのを、人柱として体で感じました。
そこで見えたのは、「画面が要らなくなる」という単純な話ではありません。
「磨く場所が、画面の使いやすさから、データの取り出しやすさへ移っていく」という、もっと地味で、もっと本質的な変化でした。

もしあなたが今、プロダクトを作る側にいるなら、一度だけ問い直してみてほしいんです。
目の前のその画面は、人が操作するために磨いていますか。それとも、AIがデータを取り出すために整えていますか。

主役が替わるなら、磨く場所も替わる。私はそう考えながら、今日も画面にあまり触らない一日を過ごしています。

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