
# データ基盤
# AI導入
# 営業マネージャー
# AI
# SFA・CRM
「AIを、うちの営業に入れたいんです」
お客様支援の現場で、ここ最近よく耳にする相談です。
営業に、マーケに、カスタマーサクセスに、何かしらAIエージェントを置きたい。
そう話される事業責任者の方々と、ご一緒する機会が増えてきました。
私はDeflagでCRO(Chief Revenue Officer)を務めている岩瀬と申します。
マーケティング・営業・カスタマーサクセスを“収益”で串刺しに見るのが役回りで、お客様の営業組織にAIをどう実装するか、という相談を日々受けています。
その中で、自分の中で何度も立ち戻る感覚があります。
「AIを入れる前に、データの方を見直す必要があるのではないか」という感覚です。
新しい発見というよりも、お客様支援の現場で改めて気づかされ続けている、と表現する方が近いと感じています。
Gartnerの予測によれば、2026年までにB2B営業組織の60%以上がAIを活用したセールスイネーブルメントを導入すると言われています。
一方で、企業全体のAI導入率が57%に達する中、営業現場では29%にとどまっているという調査もあります。
営業現場ほど“データ欠損”が、日本の営業DXを阻むボトルネックとして指摘されている状況です。
この数字を眺めるたびに思うのは、「ツールを選ぶ」と「データを整える」の優先順位が、現場でひっくり返っていることが多いのではないか、ということです。
『AIを入れたい』という相談はよく入ります。
けれども、その手前で『何を、どんな構造で残しているか』を確認させていただくと、空白の多いCRMと、議事録の所在がバラバラなチームと、商談の録音が手元に無い体制が並んでいることが、少なくありません。
責められるべき話ではないと思っています。
営業の現場では、目の前の数字を追うことが最優先で、データの残し方まで意識を割く余裕が無かった——そのほうが自然だからです。
ただ、AIを真に効かせようとすると、ここを一度、立ち止まって見直す必要があるのではないか、と感じています。
AIに分析を任せたい、という相談を受けたとき、最初に確認させていただくのは「そのデータは、断面か、時系列か」という点です。
たとえば、ヨミ確度。
今期のヨミを確度別に並べて、AIに『どの案件が落ちやすいか』を問うても、出てくる答えはぼんやりすることが多いと感じます。なぜか。それは、ヨミが「今この瞬間の値」しか持っていないからではないか、と思います。
半年前にA確度で動いていた案件が、Bに落ち、再ヒートしてAに戻り、決裁者が入れ替わってまたBへ——という“動き”が記録されていなければ、AIが分岐点を学ぶ手がかりは無いのです。
顧客スコアリングも、同じ構造だと感じています。
スコアを“今”の値だけで弾くと、半年前にどんな接点があって、その後どう冷えていったかが見えません。
“今、静かなお客様”は、半年前に熱かったから静かなのか、ずっと冷たかったから静かなのか。過去の温度の推移を持たなければ、同じ“静かさ”でも意味が変わってきます。
失注分析の景色も、似ています。
受注/失注のフラグだけで分析を回すと、結果はわかります。
けれども「どの段階で、どう揺れたか」が見えない。本当の分岐点は、結果が出る前の中盤に隠れていることが多いと感じます。
最後に「予算が合わなかった」と言われた案件でも、その3か月前に決裁者の関心が別の方向へ動いていた、ということはよくあるのではないでしょうか。
つまり、断面のデータをいくら集めても、AIは“なぜそうなったか”を学べないと感じています。時系列で過程が残っていて、初めて分岐点が読める。
これは、AI以前のデータ設計の話なのだと思います。
もう一つ、現場で改めて気づかされたのは、構造化フィールドには絶対に乗らない情報の重みです。
商談の議事録、お客様との会話、Slackや営業メンバー同士のチャット——そこに眠っていた“聞けていなかった景色”を、後から振り返って整理すると、いくつかの型が見えてきました。
ひとつめは、決裁プロセスの本当のキーパーソンが、別の場所にいたケースです。
目の前にいる担当者の方は前向きで、温度感も高い。だからCRM上のヨミは高く保たれていました。
けれども、本当の決裁権を持つ方は別の部門の役員で、その方には一度も会えていなかった——という景色を、振り返って気づくことが何度かあります。
CRMの「キーパーソン」欄に名前は載っていても、関係構築の実体までは、項目では拾えません。
ふたつめは、お客様が一度だけ漏らした「実は今期、別の予算で動いている案件があって…」という一言です。
議事録の中ほどに小さく書かれていて、当時は話題が次に流れてしまった。
けれども、後から読み返すと、案件の優先順位が動いた決定的な情報だった——そう気づくケースは、決して珍しくないと感じます。
みっつめは、「検討します」の前後で語気が変わった、その瞬間の文脈です。
言葉そのものは同じでも、その前に何が話されたかによって意味は大きく変わります。録音か、その場の空気を残した議事録の文脈を辿らなければ、再現できない情報だと思います。
よっつめは、お客様が同じ質問を3回繰り返してきていた、というパターンです。
1回ずつでは「念のため確認したいんだな」で流れます。
けれども、商談3回分の議事録を後から並べて読むと、「ここが本当の意思決定ポイントだった」と見えてくる。
CRMの「ネクストアクション」欄からは、絶対に見えない情報の重みです。
いずれも、構造化されたフィールドには乗りません。
“聞かなければいけない情報が、なぜ聞けていなかったか”——このような問いは、商談の会話そのものを残しておかなければ、後から問い直すことができない、というのが私の感覚です。
AIに営業を支えてもらおうとするとき、ついツールの話から入りたくなります。
通話を自動で要約してくれるツール、商談を録画してくれるツール、CRMを自動更新してくれるエージェント——市場には素晴らしい選択肢が並んでいます。
ただ、ツールが何を返してくれるかは、こちらが何を渡すかで決まると感じています。燃料の質が、出力の質を決める、という単純な構造です。
ですから、現場でご一緒するときには、ツール選定の前に「議事録・商談録音・Slackなどの“非構造化データ”を、AIが読める形で集める仕組み」を先に整えませんか、とお願いすることが多いです。
具体的には、商談はできるだけ録音とテキスト化を行い、案件単位で残す。
議事録のフォーマットを揃え、ファイル名や保管場所のルールを決める。
お客様に関するやり取りは、メールでもSlackでも、後から横断検索できる場所に集めておく。そんな地味な整え方です。
ここを整えるだけで、AIが読める情報量は驚くほど増えます。
そして、整えた瞬間に気づくのは、これまで「聞けていなかったこと」が、データの中に意外と残っていた、という事実です。
AIの仕事は、人間が拾えなかった文脈を、後からそっと指差してくれることでもある——と、最近は感じるようになりました。
もう一段、手前に戻ります。
ツール選定の前に、お客様にお願いしているのは、こんな問いを社内で言語化していただく作業です。
『自社は、何を時系列で残したいのか』
『何を、非構造のまま残したいのか』
たとえば、ヨミの推移を時系列で持ちたいのであれば、CRMのヨミ欄を毎週上書きするのではなく、変更履歴として残す設計が要ります。
お客様の温度感を時系列で見たいのであれば、訪問・通話・メール・Slackなど接点の発生時刻を、横並びで見られるようにしておく必要があります。
非構造化データについても同じです。
商談の会話を残したいのか、議事録の要点だけでいいのか、メールの全文を残したいのか。「全部残す」は実装でも運用でも続かないことが多いと感じます。
だから、何を残したいかを言語化することの方が、先になります。
ここを飛ばすと、どんなに優れたAIツールを入れても、入力が薄いまま空回りしやすい、というのがお客様支援の現場で見てきた景色です。
以前のCRMコラムでも触れた話とつながりますが、CRMの成否を分けていたのは、ツールやプロセスではなく、自社とお客様の状態から運用を構築できる方の存在でした。
AI営業のデータ基盤も、構造は同じだと思います。ツールが解決してくれるのではなく、自社の状態を言語化できる人が、設計の入口にいてくださることが要る。そういう順序です。
Deflagのミッションは『営業活動に余白を創り、活動量と戦略に充てる時間を最大化させ、お客様の売上貢献をする』ことです。
AIで余白を作る、というのは、私たちが日々向き合っているテーマでもあります。
ただ、余白は、AIを入れた瞬間に生まれるものではない、と感じています。
時系列で動きが残っていて、非構造のまま会話が残っていて、それを後から問い直せる状態がある——そこに初めて、AIが正しく働く土台が立ち上がる、というのが今の私の実感です。
『AIを入れる前に、自社のデータの残し方を見直す』
『ツール選定の前に、何を時系列で/何を非構造で残したいかを言語化する』
派手な話ではありません。
けれども、半年後・1年後にAIが本当に効くか効かないかは、ここで決まるのではないか、と思います。
今、自社のデータは、半年後のAIに渡せる形になっているでしょうか。
時系列で、動きが残っているでしょうか。“聞けていなかったこと”を、後から問い直せる形になっているでしょうか。
もしこの記事を読んで、何か頭の中で少し動くものがあれば、いつか一度、お話ししてみたいです。
データ設計の話は、抽象論だけだと面白くないのですが、現場の景色を並べながらだと、案外、笑い話と気づきが半々で出てきたりします。
知見・コラム
コラム
夜中、誰も見ていないPCで秘書がサボっていた
朝、Slackを開く。いつもなら、AI秘書がまとめた昨日の日報が、いちばん上に届いている。その朝は、何もありませんでした。あれ、壊れた?壊したかな。これは、自分の活動をまるごとAIに集めさせている人柱実験の、地味な裏側の話です。前に、2年分の自分をAIに読み込ませたら人脈マップまで勝手にできた、とい...
2026/7/2
コラム
気づいたら、もう画面をほとんど開いていなかった
「さっきの商談、この内容でCRMに入れていいですか」Slackで、エージェントからそんなメッセージが届いています。中身にざっと目を通して、承認ボタンを押す。やることは、それだけです。何かを指示したわけではありません。打ち込んだわけでも、画面を開いて操作したわけでもない。気づけば私は、マウスをほとんど...
2026/7/2
コラム
生成AIを導入しても生産性が上がらない本当の理由
ある調査の結果を見て、「やっぱりそうか」と思いました。Deflagで、約25,000人を対象に生成AIの利用状況をアンケートで調べてみました。利用率は30%を超えていました。けっして低くない数字です。ところが業務改善の実感はほぼゼロでした。「使っているのに変わらない」——これが今の多くの企業が直面し...
2026/6/17
記事一覧へ
お役立ち資料
営業部門のAIエージェント活用ガイド|営業現場が変わる10の業務
ダウンロード
お役立ち資料一覧を見る
Contact
まずはお気軽にご相談ください
